地球規模のカーボンニュートラルを実現するためには、国内対策だけにとどまらず、日本が世界をリードしながら、世界各国の積極的な協力を引き出していくことが必要不可欠だ。米国とは、バイデン政権発足後、私は初の外国首脳として訪米し、昨年4月にグリーン分野の協力で合意した。また、昨年6月のG7サミットでは、2030年までにG7全体のCO2排出を半分とすることや2050年までのカーボンニュートラルにコミットした。しかしながら、先進国だけの取り組みでは不十分。新興国が排出削減の方向に移行することを支援し、協力を引き出す必要があると思っている。昨年10月末には、世界の排出国が一堂に会するCOP26がイギリスで開催され、私が決断した2050年カーボンニュートラルに向けた日本の強い決意がその場で表明された。アジアや世界の脱炭素化に向けた我が国の強い意志は、各国首脳から高い評価をいただき、日本の存在感を示すことができたと考えている。

 今後の日本の具体的な行動をしっかり示し、国際的な議論のリーダーシップを取っていくことが大事。カーボンニュートラルは大きな挑戦であり、産業界にはこれまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変える必要がある企業も、数多くあると思う。政府は可能な限り、具体的かつ野心的な目標を掲げて、民間企業の大胆な投資やイノベーションへの前向きな挑戦を支持していくことが必要だ。日本の民間企業には優れた技術や人材のみならず、240兆円もの現預金もある。世界には3000兆円とも言われる環境投資への資金がある。カーボンニュートラルに向けて、日本の民間企業には産業の変革と力強い成長を生み出す力が十分あると信じている。カーボンニュートラルを目指す中で、産業構造や社会経済を変革し、力強い経済成長に繋げる。ここに日本が進むべき道があると信じている。

 そして、もう一つがデジタル。これまでの国や地方のシステムは、バラバラでデジタルを担う省庁もなく、私にはこのままでは世界から取り残されてしまうのではないかという危機感があった。まさに、役所と自治体の縦割りの弊害だった。私は、総理に就任してからすぐに、これは必ずやるぞと宣言し、昨年9月1日に内閣直属の組織としてデジタル庁をわずか1年で立ち上げた。それだけ強い問題意識を持っていたからだ。なぜかというと、わが国では新たなサービスや付加価値を生み出すものとして、成長に繋がるデータやシステムの活用ができていないからだ。また国や地方自治体が単独でシステム整備を進めてきた結果、標準化や共通化という全体の方向性を考えてこなかった。私がそうした問題意識のもとで、官房長官時代に専門家の意見をうかがいながら、行政の縦割りを打破しデジタルの壁を一気に取り崩すためには国全体の司令塔として、強力な機能を持つデジタル庁を設置しなければならない、それ以外にはないと考えていた。

 その後、新型コロナ感染症が拡大すると様々な手続きが煩雑だとか、給付金の支払いが遅い、国、地方、保健所など行政機関のシステムの連携が悪く必要な情報も把握できない、またテレワークへの移行がスムーズにいかないなど、予想された通りの課題が明らかになった。デジタル庁の意義は、全体を見ながらシステムの効率化を進めることだ。国や地方の抱えるシステムは、国だけでも1000以上ある。1700ある地方自治体には、それぞれのシステムがある。これが、バラバラに整備されてきたために、柔軟性を欠き連携も取れず非効率なシステムになった。デジタル庁は、非効率なシステムを変えることができるように、全体を統括管理する強い権限を持つようにした。今年度から4700億円の予算を計上、政府の主なシステムを自ら整備運用するほか、地方共通のデジタル基盤として5年をかけて地方公共団体の主要な業務システムの統一、標準化を進めて、行政の効率化と住民サービスの向上を徹底して行うことにしている。5年間の必要な予算についても確保している。



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