北海道経営未来塾の第7期1回目となる「特別講座」が6月18日、札幌市中央区の「札幌パークホテル」1階テラスルームで開かれた。塾生36人のほか、実行委員会関係者、グループ講座講師など約50人が参加した。講師は菅義偉前内閣総理大臣。菅氏の35分間の講演を全公開する。(写真は、講演する菅義偉前首相)

 この2年余り、日本経済は新型コロナの大きな影響を受けてきたが、雇用や事業を守り抜くという強い決意のもと、財政支出総額201兆円の累次にわたる最大規模の支援によって失業、倒産が低水準で推移している。失業は2%程度、倒産は50数年ぶりの少ない件数だ。GDPも昨年末にはコロナ前の水準に戻ったが、今年に入ってロシアによるウクライナ侵攻によって原油や穀物価格の高騰が、国内の物価上昇を招いている。
 政府は4月に約13兆円の総合緊急経済対策を決定、燃料油価格の激変緩和とともに厳しい状況のある方々への支援によって、コロナ禍からの回復を確かなものとしている。今後は、コロナで失われた経済活動のダイナミズムを取り戻すため、早期に回復させるための総合的な方策を早急に具体化し、実行に移していく。大きな成果が期待されるものは、原油高騰とともに進んできた円安のメリットを生かすことだ。

 まず挙げられるのは、インバウンドの回復。感染対策を十分に講じた上で、水際規制をより一層緩和して観光の活性化を図るベきだと思っている。2019年の訪日外国人客数は、7年続けて過去最高を更新、3188万人となりインバウンド消費額は4・8兆円を記録した。2021年にはコロナにより25万人に減少した。5兆円近い消費をどうやって回復するかが大きな課題だが、昨今の円安に伴って日本の魅力は確実に上がってきており、インバウンドが解禁されれば、爆買い消費が戻ってくる。
 折しも世界経済フォーラムが5月24日に発表した2021年版の観光開発指数ランキングで、日本が初めて世界で1位になった。観光大国になる条件には4つあって、気候、自然、文化、食の条件が整っているのが日本。日本は石油など地下資源を持たないために、原油価格高騰により海外への支払いが増え、所得が流出しているが、日本の豊かな自然、文化を資源と捉えてこれを生かすことで海外の需要を取り込み、海外からの所得を得ていく発想が重要だと思っている。

 農産物の輸出も円安メリットを生かせる分野だ。2012年の民主党政権時には4500億円だったが、2021年には1兆2000億円と3倍近くに増えている。日本酒や日本の美味しいフルーツなど日本の食文化が、海外に浸透するに従って、高い潜在力が発揮されてきた。2030年には5兆円の輸出目標を掲げており、そこに向かって着実に進めていくことが大事だ。観光や農業は、いずれも地域に根差した地場の産業。そこにデジタルが進展し、リモートワークなどがより一層浸透していけば、東京一極集中ではなく、地域の経済が大きく発展していくだろうと思う。

 円安は、原油など輸入価格の高騰という負の面ばかりではない。本来発生すべき円安メリットを十分に生かす方策が制限されていなければ、これほど多くの問題にはならなかっただろうと思う。中長期的には、グリーン、デジタルなどの成長分野に大胆に投資を促進するなど、経済を前に動かし、それによって新しい雇用や賃金の上昇、ひいては消費の活性化に繋げていくことが重要だと思っている。成長戦略の中でも、私自身が特に力を入れているのがカーボンニュートラルの実現だ。カーボンニュートラルは、人類全体が挑戦しなければならない世界的課題。産業革命はエネルギー革命とも言われているが、人類は大量の化石燃料を消費することで巨大な動力を手に入れた。その結果として製造業や交通、輸送システムなどが飛躍的に発達し、私たちは急激な経済成長と快適な生活環境を手に入れることができるようになった。



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