キーンという小さなジェット音を響かせながら誘導路をゆっくり進んできたグレーの機体は、放水アーチをくぐって11時40分頃、91番スポットに停止した。2024年4月11日、この日からヤマトホールディングスとJALグループの貨物専用機が新千歳空港に就航した。機体は成田から飛んできた1便。関係者が見守る中、積まれていた専用コンテナが手際よく降ろされた。※動画はこちらの画像↓をクリックしてご覧ください。

(写真は、新千歳空港に到着したヤマトグループとJALグループの貨物専用機)

(写真は、貨物専用機の就航記念セレモニー)

「2019年から貨物専用機の検討を開始してきた。コロナ禍や円安、物価高などさまざまな壁があったが、計画通りのスタートを切ることができた」。ヤマトホールディングスの栗栖利蔵副社長はほっとした表情を見せた。トラック運転手の労働時間規制が強化される2024年問題や増大するEC需要など、新たな輸送手段に迫られていたヤマトグループ。その切り札とも言えるのが、航空輸送。「送り手と受け手に時間と距離を超えた新しい価値を提供できる。私たちが、これまでアプローチできていなかった分野の荷物を運ぶことができるようになる」と栗栖副社長は胸を張った。

 この機体は、旅客機を海外の専門メーカーが貨物用に改良したエアバスA321-200P2F型機。運べるのは、10tトラックで6台分、最大28tを積める。到着した操縦室横のドアにタラップ車が横付けされ、係員が機内に入って中のスイッチを押すと、機体前方にあるカーゴドアがゆっくりと開いた。新千歳空港に新たに配備されたメインデッキローダーが近づき固定されると、胴体部分に積まれたコンテナが2基ずつ運び出された。コンテナが降ろされるたびに、トーイングトラクターがそれを牽引してヤマトの格納庫にスピーディーに運んでいった。

(写真は、貨物の積み降ろし作業)

 貨物の積み降ろしを終えると、すぐに積み込みが始まった。積み降ろしとは逆の手順で、次々と機体内部にコンテナが運び込まれていく。積み込みが終わり、カーゴドアが閉じられ、トーイングカーで機体が誘導路に移動すると間もなく、機体はゆっくりと滑走路に進んでいった。到着から1時間半、13時10分過ぎに新千歳発の初便が離陸していった。

 日本航空執行役員の小山雄司氏は、「ヤマトグループとの貨物便運航によって、北海道から沖縄まで全国ネットワークが構築できる。北海道全域から新千歳を通じて全国、世界に北海道の魅力を発信する手助けができることを光栄に思う。24時間運用の新千歳空港を、北海道全体の物流拠点として活用していきたい」と話した。貨物便を運航するスプリング・ジャパン執行役員の大佐古将彦氏は、「当社は、JALグループのLCC(格安航空会社)航空会社。今年8月に10周年を迎えるが、当社のようなLCCが貨物を運航するのは初めてで大きな挑戦。社会的に意義のある事業に携わることができる」と語った。

(写真は、ラピダス半導体工場建設のクレーンを望みながら滑走路に進む貨物専用機)

 貨物専用機が飛び立っていった新千歳空港からは、遠くにいくつものクレーンの姿を肉眼で望むことができる。ラピダスが手掛ける次世代半導体工場の建設現場。来年にはパイロットラインが稼働するが、この貨物専用機でもラピダス需要を見込む。「今は、本州各地からラピダス建設に向けた各部材の搬入が多いが、製品化が進んだ段階で、新千歳から全国、全世界にどう運ぶかの話し合いをしている」(栗栖氏)。

 もちろん食に関する需要も大きい。来賓として就航を見届けた道の浦本元人副知事は、「首都圏や国内各地、海外市場とも近くなるため、道産品の競争力強化に繋がる」と期待する。栗栖氏も、「果物など鮮度重視の食品は、首都圏やそれ以外の地域にも旅客機床下スペースを使って運ぶことで、毛がになどを生きたまま運ぶことができる。クール便で貨物専用機を活用することで、さらに農水産物関係者のニーズは高まると思うので、今後各方面と話をしていきたい」と話した。

 この日から就航したのは、新千歳と成田の往復1日4便のほか、成田と那覇、成田と北九州、那覇と北九州、北九州と成田など合計9便。現在は機体2機だが、間もなく3機目が導入され、今夏には1日13便に増える。新千歳発の初便には、サッポロドラッグストアーが沖縄で展開している店舗に向けて一部荷物も試験的に運ばれた。

 トラック輸送に比べて割高な航空機輸送では、コスト面での課題が残る。しかし、栗栖副社長は強気だ。「貨物専用機での輸送は、宅急便とは違った価値を提供できる。トラック輸送も2024年問題含め、燃料費等の高騰で単価が上がっている。今後は、コスト面ではほぼ変わらないくらいのオペレーションができるのではないかと思っている」ーー新千歳空港を飛び立った機体は、雲の中に消えていった。


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