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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第86回は、歌志内市の「歌志内市郷土館「ゆめつむぎ」」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第86回 歌志内市郷土館「ゆめつむぎ」
-炭鉱街の故郷ここにあり-

 砂川バスターミナルから道道114号を東に向かい、歌志内市に入る。かつて炭都として隆盛を誇ったであろう山間の道の両側には、ヨーロッパの田舎風の真新しい建物が所々に並んでいる。三角屋根の時計台がある郷土館も、平成9(1997)年に歌志内市が開基100年を記念して建設したもので、地下一階地上二階建て。郷土の歴史と文化を未来に継承して歌志内の夢を紡いでゆこうと、「ゆめつむぎ」と名付けられた。


「ゆめつむぎ」正面全景

 館内に入ると正面に、旧国鉄歌志内線終着駅の表示板が立っている。列車から降りて、街の中に入って行くような気持ちで館内を回る。石炭輸送のために、明治24(1891)年、幌内線に次ぎ道内で二番目の鉄道が歌志内と岩見沢間に開通した。北炭北空知採炭所の開発と共に東北地方からの入植者が増え、歌志内は炭鉱の街として飛躍的に発展し、最盛期の人口は46000人を超えた。
 収蔵展示室には、昭和30年代の街の賑わいを示す暮らしの収蔵品が所狭しと並んでいる。テレビ、ラジオ、蓄音機、などの電化製品。国産車普及の先駆けとなった軽自動車スバル360など、当時の最先端の高級品がある。それらを購入できる豊かな経済力が、この歌志内の街にはあった。炭鉱の街がいかに栄えていたかが偲ばれる。今、役目を終えた道具たちは、静かに佇んでいる。
 テーマ展示室では、坑内で働く作業員たちの姿がパネルで示されている。石炭を掘る男の逞しい写真、鶴嘴など仕事の道具類、掘り出した石炭の大きな塊などが置かれている。日本の産業の発展を支えた炭鉱マン達の、誇り高き姿が伝わってくる。徳川時代から続くという秋田から伝わって来た、鉱山労働者の相互扶助団体「友子」の会旗も飾られている。


館内風景

 歌志内で生まれ育ち、「歌志内無くして我が文学無し」と故郷を愛した芥川賞受賞作家、高橋揆一郎の書斎が再現されている。文机に原稿用紙、万年筆など愛用の品々が並ぶ。働きながら苦学した経験が、人間を見つめる温かな作品を生み出した。1月31日の命日を記念して「氷柱忌」と名付けられた額縁も掛けられている。
 三浦綾子(独身時代は堀田)も若き16歳、歌志内で代用教員として小学校に勤務していた。真面目で真剣な教師時代の写真の数々。この時の経験と戦後の自省が、後に『銃口』の名作へとつながる。人生の一時期を炭鉱の街で過ごし、青春の夢をつむいで生きていた。


館内風景

 螺旋階段を二階に上がる。炭鉱と暮らしをテーマに展示しているコーナだ。今回のテーマは「石炭ストーブ」。雪深い北国では欠かせない暖房器具が並んでいる。だるまストーブなど、懐かしい。
 地階収蔵展示室には、炭鉱閉山の際に寄贈されたトロッコなど実物の機材・用具を展示している。また、元鉱員が手作りしたという真っ暗な坑内を体験できる「日本でここだけの体験コーナ」もある。作業員らが使った錆びたコールピックやドリルには、手の跡が鈍く光りついている。高度経済成長期の華やかな世界とは無縁の、地の底で黙々と石炭を掘っていた男たちの尊き生き様があった。この郷土館には、わずか100年で繁栄と衰退を極め、歴史から消え去ろうとしている日本の石炭産業の縮図が、保存されている。
 日本の近代化を築き戦後の復興を担った石炭産業も、エネルギー革命と呼ばれた石油の登場によって変革する。昭和の中頃から、炭鉱が次々に閉山に追い込まれ姿を消していった。歌志内市は炭鉱に代わる新たな産業を模索する。四方を山に囲まれている街は、スイス・アルプス地方の美しい明るいイメージを取り込み、古い炭住(炭鉱住宅)をヨーロッパの山小屋風に建て替えるところから再出発した。温泉の「チロルの湯」や「神威岳スキー場」など、観光リゾート都市を目指す。街中の建物の紹介パネルも、郷土館で見ることができる。

 帰り際、歌志内についての故事歴史文化などを語り繋ぐ、手作りの小冊子や豆本に気が付いた。郷土館の展示物と共に、この街の貴重な資料が受け継がれ残されている。
 ここは、かつての炭鉱の街、歌志内の故郷なのだから。

利用案内
住  所:〒073-0403 歌志内市字本町1027-1
電話案内:0125-43-2131
開館時間:10:00~17:00
休 館 日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)、年末年始
入 場 料:無料
アクセス:JR砂川駅より中央バス赤平奈井江線で50分、歌志内市街下車すぐ 
     道央自動車道奈井江砂川インターチェンジから20分
H  P:歌志内市郷土館ゆめつむぎ

付近の見どころ
「悲別ロマン座」
 旧住友上歌志内鉱の福利厚生施設で昭和28(1953)年に建設され、倉本聰のドラマの舞台にもなった。旧国鉄歌志内線の後地には「サイクリングロード」が整備され、春には桜並木が続く。「歌志内公園」には、国木田独歩の碑文や、高橋揆一郎の文学碑がある

文・写真:山崎 由紀子

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