一つのことを10年続けると、見えてくる景色も変わってくるかもしれない。石狩市花川南1条4丁目の焼肉専門店「ホルモンキング」。店主兼オーナーの鎌倉孝行さん(39)が切り盛りするこの店舗は、今年で10年を迎えた。「楽しかったと思って帰ってもらうこと」ーー開店以来、抱き続けているこの素朴な想いは変わらないものの、お客を喜ばせたいという想いは年々強くなってきたと言う。(写真は、暖簾を持つ店主兼オーナーの鎌倉孝行さん)

 鎌倉さんが会社員を辞め、「ホルモンキング」を開店したのは29歳の時だった。実父が、寿司店「閣鮨」を営業しており、子どもの頃から飲食業には関心があった。会社員を辞めてから接客力を高めようと父親の店で働いたが、寿司店を継ぐ気はなかった。「小さい頃から鮮魚を食べていたので、むしろ肉の方に興味があった」と鎌倉さんは、当時ブームになり始めていた、ホルモンをメインにした焼肉店を開くことにする。「閣鮨」の横に「ホルモンキング」を開業、「鮨と焼肉」という珍しい組み合わせの店舗が並ぶことになった。

 開業当初、集客のために食べ飲み放題2900円という破格の値段を設定したところ、これが大きく当たった。「2ヵ月続けましたが、儲けはほぼゼロ。でも、ひと月に1000人以上のお客さまがみえて、店を広く知ってもらうことができました」。
 こだわっているのは、肉の種類や鮮度、価格だ。ホルモンと和牛の仕入れ先は、それぞれ分けており、和牛は直接目で見て仕入れることにしている。焼肉チェーン店などの半額か3分の1という、低価格の肉も提供している。真空パックを湯煎加熱して火を通す低温調理で、生に近い状態の肉も用意している。また、あまり知られていないような、希少部位を扱っているのも特徴になっている。

 この10年間で、肉の仕入れ価格は上昇の一途をたどっている。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、そして鶏インフルエンザ。国際情勢や為替に敏感に反応するのが精肉価格だが、鎌倉さんはほどんど価格を変えていない。「10年前と比べてホルモン1人前で100円程度の値上げにとどめていますし、価格を上げていない肉もあります。地域に根差した焼肉店なので、薄利でも地域のお客さまが来店しやすい環境をつくりたいからです」。

 開店以来、鎌倉さんが大切にしていることは、お客に楽しかったという気持ちを持ってもらうこと。実父が自家菜園で育てた、野菜や野山で収穫した山菜を提供したり、タレ以外のさまざまな食べ方を紹介したりするなど、焼肉店のイメージを超えた店づくりに腐心してきた。

 1年1年を重ね、10周年を迎えた今年、4月の10日間「10周年記念春の感謝祭」を行った。仕入れ先の協力も得て人気メニューを半額で提供、期間中満席が続いた。お客の笑顔を見ながら、鎌倉さんは、これまで続けてきたことに間違いがなかったことに、ほっとしたという。大型連休中は、シーズンが始まったバーベキューセットで10周年セールを行い、好評だった。7月には、名古屋で行われる北海道物産展に初出店して、道産のホルモンとジンギスカンを紹介する予定だ。

 ポストコロナ時代と言われる昨今、生活環境の変化や物価高から外食の頻度が低下する傾向にある。「ホルモンキング」が、これから歩む10年は、これまでとは大きく変わっていくだろう。鎌倉さんは、この10年の間に、AKINAI合同会社を設立してキング兼CEOの肩書きで店を切り盛りする。AKINAIは、商いと飽きないを掛けた社名だ。10年を経てもなお、鎌倉さんの顔には商売人らしからぬあどけなさが残る。それを伸び代(しろ)にお客を飽きさせず、喜ばし続けられるか。日々お客と向き合う鎌倉さん自身が問われることになる。
(写真は、テイクアウト用の焼肉セット)


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