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 ――その空港民営化について、信金業界はどんなスタンスですか。

 増田 それぞれ空港を抱えている地域の金庫は当事者として関与している。私も稚内空港に関わりがあり、新千歳空港との取引もある。この後の展開がどうなるか、非常に興味深い。帯広空港や釧路空港、女満別空港はアジアの航空路線を意識している。私も北海道のローカル空港とアジアのアクセスが飛躍的に良くなると思っている。民間委託によって北海道全体に成果があがるだろう。

 ――信金も空港民営化を担うSPC(特別目的会社)に参画しても良いのでは。

 増田 出資や間接融資も含めて当事者たり得ることは間違いないし、関わらなければいけない。北海道の場合、経済的にも空港は命綱。空港を抱えている地域にとって空港は現在でもありがたい存在だが、もっとチャンスが膨らむ。空港は赤字経営だと言うが、地域全体で見たら決して赤字ではない。空港があることによるメリットは大きい。空港だけの損益計算書を見ていてはだめ。地域経済トータルで空港の存在を見るべきだ。

 ――JR北海道の路線縮小問題についての考え方は。

 増田 東京の大消費地が、全国各地のうまいものをあれだけの安い価格で集められるのは、トラックやJRの輸送があるから。昔と違ってはるかにコストダウンになった。それを全部ひっくるめて考えて、JRの問題も議論したほうがいい。JR北海道の決算書だけの議論になってはいけない。会社が難しい問題を抱えているのは聞いている。それを横に置いたとしても、線路がなければ困るという話は、沿線に住んでいる人たちだけの問題ではない。線路は全部つながっているから全体の議論が必要だ。

 ――マイナス金利が続いています。金融業界に変化は出てきましたか。

 増田 マイナス金利の影響をよく聞かれるが、預金と貸出の利ザヤが少なくて苦労しているのは今に始まったことではない。以前でも、余裕があって利ザヤが取れていたわけではない。日銀の今の金融政策が悪いことにはならない。利ザヤが縮小したのは間違いないが、これが金融機関の経営に直結した話題になるのはどうかと思う。
 しかし、今の状況が続けば、全員討ち死にではないにしても体力の弱った金融機関から立ち行かなくなるだろう。弱った企業が淘汰されるのは自然の摂理だ。金融庁は『皆さん、やることはやってください』と言う。きちんとやることをやっていれば存続できるはず、やっているふりはダメですよ、ということだ。

 私がいつも言っていることは、何でも日常的にやらなければいけないということ。周りから拍手喝采がわくような打ち上げ花火をしても効果は少ない。目立たなくても続けていれば、その時その時で辛さはあるが存続していける。条件が良くないとやれない商売だったら、長続きしない。どんな商売でも同じだ。必ず悪い時があるから、その時に備えるとともに逆風には逆風の経営方法を取ること。その方法は自分たちで考えるしかない。

 不良債権問題と違って今の金融機関が陥っているのは成人病。体が悪くなってから食事療法をしても、すぐには効果が出てこない。10年間に亘って原因を作った期間があるとすれば、元に戻すのには10年かかる。そこが成人病の厄介な理由だ。

 ――マイナス金利が続けば、破綻する金融機関も出てくると……。

 増田 全国を見れば手遅れ状態の金融機関はある。北海道の場合は、短期間で行き詰まるところはないだろう。ただこの環境が10年、20年と延びていった時に、当然持続できないところも出てくる。
 最近、私の地元でも取引先の事業性評価の話がよく出る。事業がだめになる原因は何か、それは経営者の良し悪しに尽きる。経営者の方々に話すことは、『商売の良し悪しはあなた方次第だ』と。外部環境はどんどん変わるから、悪い時は悪い時なりに考える。そうすれば、事業は継続していくものだ。

 ――事業性評価とは、どう目利きするかということですね。

 増田 一番大事なのは目利き。その上で採算に合う商売をやっているかどうかだ。当金庫の職員に言うのは、『マニュアルで1項目ごとに〇、×を付けても経営者評価にはならない』と。事業性チェックシートいうものも出回っているが、税理士などが数字だけで判断する時に使うのは良い。しかし、事業は全体を含めて見なければならず、何よりも事業をしている人を見なければいけない。その上で細かいことを見ていくべきだ。



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