
──中期事業計画の内容は。
大西 「鶴雅100年進化論」という名前を若手たちが付けてくれたのですが、3年ぐらいのスパンで進捗を確認しながら、創業100周年に当たる30年先を見据えています。新しい発想も入っており、今まで大事にしてきたことや会長の頭の中にしかなかったことをしっかりと可視化して、社員全員で共有をできるようにしました。
──そんな中、2026年8月には支笏湖温泉に新しい宿泊施設「しこつ湖 鶴雅別荘 湖白の抄」が開業します。
大西 当初は、すでにある「碧の座」「水の謌」のようなハイグレードな宿ではなく、アドベンチャーツーリズムの拠点として、カジュアルに滞在できる施設にする計画でした。しかし、近年の建築費の高騰などで、それでは投資として成立しないことが分かり、方向転換を行ないました。
支笏湖の既存2施設は、当社のフラッグシップで収益率も高い。近くに新千歳空港と札幌圏を抱えていることが強さの源泉です。グループ全体の経営を考えた時、この支笏湖で利益を生み出していくことが必要という判断になりました。
これまで支笏湖では「座」と「謌」というブランドを展開してきましたが、今回は、その中間に位置付けられる「抄」を新たに加えます。いずれも当社の中ではハイグレードな施設ですが、それぞれの個性をより明確にし、新たな世界観で支笏湖の魅力をお伝えしていきます。食においては発酵をテーマとし、美と健康という側面からも、新しい楽しみ方をご提案したいと考えています。
──空間づくりでは「白」が基調になっているとか。
大西 今までは、支笏湖ブルーをテーマに展開してきましたが、風の無い凪の時に見せる白い湖面も、支笏湖の美しい顔の一つです。その白を「湖白の抄」ではテーマにします。24部屋は全室露天風呂付きで、宿泊単価は5万円前後を予定しています。
──支笏湖では、新たなイベントも企画されました。
大西 当社は昨年、創業70周年を迎えましたが、必ず節目の年には、貢献事業としてまとまった資金を地域に投資しています。前回までは阿寒湖だったのですが、今回は、千歳市にイベント用の機器として5千万円を寄付させていただきました。地域が、長期間にわたって価値にしていけるようなものにしようと、観光の閑散期である2026年4月の約1カ月間、光と音のイベント「支笏湖 イルミナ ヒストリア」を開催しました。
支笏湖の物語を漫画家・文筆家・画家であるヤマザキマリさんにプロデュースしてもらい、マリさんのお母さまが、千歳フィルハーモニーオーケストラを作られたヴィオラ奏者ということもあって、コンサートも毎週末開催しました。世界遺産のテーマの作曲家である鳥山雄司さんに、物語のテーマソングを制作していただきました。
普段はイタリアに住んでいるマリさんから、ヨーロッパの湖のほとりではコンサートやフェスが定期的に開催され、文化的な役割をリゾート地が担っているとお聞きしました。今後もそういった形で新たな地域文化を皆さんと育てることで、支笏湖がより多くの方に愛され、大切にされるとうれしいと考えています。
──北海道観光の可能性と課題をどう考えますか。
大西 北海道の魅力は挙げればキリがなく、観光業界で誘致や受け入れをしている身として、可能性は無限大だと実感しています。一方で、課題は人材不足や二次交通の問題のほか、災害などの際に業界全体が不安定になることへの対応です。
──コロナ禍で失われた観光人材がなかなか戻ってきていない。心のこもったおもてなしをしてくれるプロフェッショナルな人材を、どう確保をしていくかが問われています。
大西 業界として人材育成に取り組んでいますが、少子化の中、まずは魅力ある、そして選ばれる職業でなければなりません。旅館やホテルは衣食住に関わる懐の深い職場で、いろいろなスキルを生かせる場でもあります。しっかりと人材を生かせる体制を整えていけば、やりがいを感じてもらえる業界だと思います。そこを強くアピールする必要があると思っています。
──今後、AIやロボットがどこまで宿泊業、観光業で役に立つかというテーマもあります。
大西 お客さまが何に対して代金をお支払いくださるのかというと、それは感動に対してです。そして感動は、人と人とのふれあいから生まれるものだと思います。自動チェックイン機などを導入していくにしても、最初のお迎えなどは価値創造の大事な一歩ですので、そこの人手を削るわけにはいきません。業務のDX化を進めながら、遅れず進みすぎず、うまくバランスをとっていかないといけないと考えています。


































