ダイイチ(本社・帯広市)は、今年65周年を迎え、札幌の中心部ススキノに新しく生まれる複合商業施設「ココノススキノ」に出店する。札幌進出から足かけ20年の節目、地元、帯広・十勝のカラーを超えた「札幌のダイイチ」で勝負をかける。一方で、上場企業のガバナンスが問われた不適切会計では、再発防止策を徹底、粛々と社内改革を進める。また、資本業務提携先のイトーヨーカ堂(同・東京都千代田区)との関係は、新たな局面を迎えている。若園清社長に、「ススキノ店」(仮称)の勝算やイトーヨーカ堂との今後の協業について聞いた。(わかぞの・きよし)1952年12月生まれ、70歳。明治大学卒業後、1976年4月国分入社、1979年4月ダイイチ入社。1988年11月帯広店舗運営部長、1991年11月取締役、1998年12月常務取締役開発企画担当、2008年12月専務取締役開発企画兼総務担当、2014年4月専務取締役開発企画兼教育担当、2014年9月専務取締役販売本部長、2016年12月代表取締役専務販売本部長、2017年3月代表取締役専務開発企画本部長、2019年5月代表取締役専務総務担当、2020年11月代表取締役社長。

 ーートライアルの幕別店がオープンして、「トライアル」が帯広・十勝で2店舗になりました。価格競争は激しくなりましたか。

 若園 昨年来の物価高で商品の値段もかなり上がっています。その影響もあって、際立った安さのアピールはそれほどありません。この先が、まだ数百品目の値上げが続きます。トライアルさんが、2店舗になったことで当然ディスカウントの志向は強くなります。ディスカウント志向のスーパーと私たちのような標準的なスーパーの2極分化が進んでいき、お客さまの2極分化も進んでいくと思います。帯広・十勝の限られたパイの中ですから、厳しい面はありますが、絶えず動いて前へ進まないといけない。立ち止まったら置いていかれてしまいます。

 ーー前に進むとは。

 若園 前に進むということは、攻めるところは攻めるということ。トライアルはエブリデーロープライスで、当社がロープライスにできるのは、限られた商品。ピンポイントでお客さまのニーズが高いと思われる季節商品などは、一定レベルの価格できちんと対応しなければならない。

 価格は今まで以上にシビアになります。ベンチマーク(目標とする店舗)をどこに置いて良いかが、分からなくなってきています。片方ではトライアルが2店舗になったので、トライアルをベンチマークにすると。しかし、周辺の同業のスーパーも皆さん切磋琢磨しています。そのあたりを見誤らないようにしないといけない。

 ーー帯広もディスカウント化の流れに巻き込まれる。

 若園 これまで、帯広・十勝はディスカウント志向が弱かったのですが、道内のどこの地域とも変わらなくなってきました。そんな中、当社は今年で65周年を迎えました。紆余曲折を経ながら、大海に浮かぶ小船ですが、何とかここまできたのは従業員、歴代役職員もそうですが、やはり毎日、毎日ご来店いただいているお客さまが、支えてくれたからです。特に、昨年は後述するようにさまざまな問題がありましたので、かなり消費者の皆さまに不安を与えてしまいましたが、引き続きご利用いただけました。いろいろな問題があっても、お店はお店でしっかりと本来の役割を果たしてきました。そうしたことから、何とかここまで来ることができました。

 ――コロナ以降で消費の変化はありますか。

 若園 一般的に言えば、給料は増えないけれど、物価高で食費はどんどん膨らんでいます。生活防衛のために、買い控えになるのは当然ですが、一方で最低限1日の食生活は維持しなければならない。私たちは、スーパーの事業者として無駄な買い物を求めないということを徹底しなければなりません。ともすれば、「どうせならこの機会にたくさん買ってもらおう」と大型志向で販売する場合があります。確かに、量が多くて安いことを求めるお客さまがいますから、多少のことはやりますが、「我が家は2人家族だから、3つも4つもいらない」と、2つだけ入っていれば十分だという買い物客もいます。作業性を重視すると、大型にして単価アップを狙ってしまったり、買い上げ単価を上げるために、1点単価を高めようとする傾向にあります。「大型でお買い得ですよ」と。

 でも、大型商品を買うと、お客さまの来店頻度も落ちてしまいます。ややもすると、お店でロスを出さない分、家庭でロスを出してしまうこともあります。無駄な買い物を求めず、本当に必要なものだけを買っていただくことが基本です。商品展開では季節の先取りなど、売る側の志向も出ますが、それよりも、お客さまが求めているものは何なのか、という探究心を持つことが大切。従業員の家族の声や一緒に働くパートナーさん方の声を大切にすることが、一番ではないかと思います。



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