――同友会活動が変化しているように感じます。冒頭言ったように行動する同友会というイメージが出てきましたね。
横内 それが本来の姿なので原点に立ち返ってやっていこうということです。皆さんに関心をもらってもらうためには、我々がどんな活動をしているか、提言などで訴えていかなければ伝わりません。同友会で行っている議論が会員たち企業ですぐ役に立つかどうかはわかりませんが、北海道をどうするかなどに関心を持って考え行動する人たちが増えてくれば、同友会として存在価値が出てくるのではないかと思っています。
北海道の経済界の在り方に、私は少し不満に思っていることがあります。例えばエネルギー問題。原発への反対運動が出るとほとんどの人は黙ってしまう。しかし本音では、『こんなに電力料金が上がったらやっていけない』と言う人がたくさんいる。代替エネルギーに置き換えて行くことは大切ですが、2~3年の短期間で原子力から変えるのは現実問題として無理です。泊原発をどうするかとなったときに、『早期稼働』とは誰も言わない。道庁はこういう問題には、国に地方の実情を訴えて国の判断を待ってということでしょう。原子力規制委員会の動きは遅すぎます。自民党はエネルギーの将来構想を本当の形で示したかというとそうではありません。原子力は主要な電力源であると言っているにもかかわらず規制委員会をなぜ急がせないのかと聞くと、『第三者制の強い組織だから政府が関与すべき問題ではない』と答えます。
TPP(環太平洋経済連携協定)問題もそうです。絶対反対という抗議の模様がテレビで流れ、真ん中に農業界のトップが座り道庁と道経連、当時は同友会もオール北海道でTPP反対だと言っていましたが、これは少し異様です。すべての団体トップが同じ意見ということなのでしょうか。同友会はこういうことを踏まえて、叩かれてもいいからみんなが納得した意見であればそれを発表していこうと。そういうことが同友会活動の本来の目的です。だからこそ出身企業にとらわれず、業界にとらわれない同友会のメリットがあるのです。横内の言うことは、北洋銀行や銀行業界が言っていることではないんだと。
――横並び一線ではダメだと…。
横内 この二つことは例えですが、私は北海道の経済界のあり方としては決して良いことではないと思う。農業は大事ですが、国が施策を打ち出していくときに関税という守り方しかないのかどうか。EUなどがやっているように関税はできるだけ低くするが、いろんな形で支援しているケースだってあります。なぜそういう選択肢があるのに日本の農業は関税で守らなければいけないのか。もう少しみんなで議論してはどうでしょう。産業界はもう少し本音で意見をぶつけ合った方が良いと思います。
――地方創生について、横内会長の基本的な考え方として何がポイントになると思いますか。
横内 アベノミクスの成長戦略で経済構造の方向性が描かれましたが、それに基づいて地方公共団体が地方版の成長戦略を作ることになっており議論がこれから本格化します。国のふるさと創生本部が求めているのは地方の特色を生かした成長戦略だということ。その場限りのことではなく継続性のあるビジョンが求められています。その背景には人口問題があります。人口問題という構造的な問題から逃れられないからです。その基盤の上に課題を克服するような形で成長戦略を地域ごとに作っていかないといけない。
道庁でも議論が始まりましたが、まずどういう北海道になりたいのかを考えることが基本です。北海道として強みを活かしていくというのはどういうことか、将来ビジョンを描く中で足りないもの、弱みは何か。それを克服する手立てには何があるのかといったコンセンサスを作る必要があります。
成長戦略ができてそれを実行に移す主役は民間サイドです。だからビジョンを作るときから民間サイドと並走しなければならない。北海道の将来に向けて、既存の企業やこれから会社を起こそうとする人たちはイノベーションを軸に据えることが大切です。北海道の中でニュービジネスをどういう分野に生み出していくのか。雇用創出を目指したイノベーションやニュービジネスを描くべきだと思う。
よくこれ以上の成長はいらないという議論があります。『なぜ成長、成長というのか、着るものはあるし食べるものもある』という主張です。私は、例え高度成長ではなくてもそれなりの成長がないと現在の暮らしも維持できなくなるリスクがあると考えます。例えば東京だって東京オリンピックのころに作ったインフラが更新期に来ていますし札幌や北海道でも同じです。更新していく原資として現在の税収と企業所得だけでは心許ない。ある程度の成長があってはじめて支えていけます。心を入れ替えて暮らし方を変えてもコンクリートの劣化は免れない。ある程度の成長ができるような社会にしながら、その中で皆さんがそれなりに満足できるような暮らし方をそれぞれの人が考えてくださいということがベースだと思うのです。
――GDPでは北海道は20兆円を切って久しいが、横内会長は何パーセントくらいの成長率が必要だと考えますか。
横内 現在の日本の潜在成長率は0・5%より低いと言われています。私は1%以上に上げて行くための経済活動や投資をしなければならないと考えます。物価が2~3%上がることを目指した政策が進んでいますから、その分を考えるともう少し高めの潜在成長率があっても良い。それこそ今度の成長戦略にかかってきます。ゼロ成長ではなく2%を少し上回るような投資をしっかりやっていける経済構造にしなければなりません。
――道内の出生率は1・27で47都道府県中44位。この問題も地方創生と絡めて取り組んでいかなければいけません。
横内 GDPは働く人の数と1人の生産性をかけたもの。働く人の数が減っていくわけですから生産性を伸ばさないと総生産は同じにならない。人口を減らさない努力はいろいろするとしても急に働く人が増えるものではありません。とりあえずやらなければいけないことは、生産性を上げること。イノベーションや新しいビジネスの展開のほか既往の生産システムの中でもっと生産性を高めていくことを常時やらなければいけない。雇用を新しいビジネスに振り向けて行くことが、新興国からの追い上げを振り払い、先進国として一歩先へ社会を進めていく原動力になりますから。
――本日はありがとうございました。(終わり)
横内龍三・北海道経済同友会代表幹事に聞く「北極海航路」「地方創生」そして「経済界の風土」
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