かつての夕張線と言った方が通りの良いJR石勝線夕張支線(新夕張~夕張16・1㎞)の廃止で夕張市とJR北海道が合意した。これまでは、JRの提案に地元自治体が苦渋の受け入れという予定調和の廃線劇だったが、今回は市長自ら廃止を提案するなど積極的鉄路廃止の第1号になる。全国唯一の財政再生団体である夕張市が打ち出した“廃線”を復興の追い風にしようという取り組みは、鉄路廃止に直面する道内自治体の刺激になりそうだ。IMG_7017
IMG_6998(写真上は、鹿の谷駅に到着した気動車。写真下は清水沢駅の待合室に貼られていた声)

 夕張支線の輸送密度(1㎞当たりの1日平均輸送人員)は、2年前で117人。道内では留萌線の増毛~留萌間の39人、札沼線の北海道医療大学~新十津川の81人に次いで乗車する人が少ない。支線単独での赤字額は1億8200万円。1892年に開通し、かつて11万人を超えた炭鉱のマチを隆盛に導いた鉄路の面影は人々の記憶にしかなく、将来的にも好転の見込みのない鉄路であることは自明だった。
 
 いずれは廃線になると自治体や住民、JRが考えても誰もが廃線の口火を切るのを躊躇するのがこれまでの常識。もう手遅れという段階で、JRの提案に地元が代替案の死守を求めるという予定調和の廃線劇を何度も見て来た。しかし、これでは地元から離れた地域に住む道民にはあまり共感を呼ばない。
  
 そんな常識を打ち破ったのが夕張市の鈴木直道市長(35)。誰もが躊躇した廃止の口火を当の首長自らが切るという新常識。自治体側が三下り半を突き付けてJRに条件を提示して“廃線後”を議論するという発想の転換だ。鈴木市長は、「座して廃線を待つのではなく『攻めの廃線を提案し、ピンチをチャンスに変える発想で挑戦する』と語っているという。次の時代に向けて自治体、地元住民、JRが知恵を出し合い、新しい地域公共交通を創り上げていく夕張モデルの登場は、同種同様の問題に悩む道内各自治体にも刺激を与える。
 
 石原都政時代に財政破綻した夕張市に東京都職員から出向した鈴木氏は、現在市長2期目で夕張在住7年を超えた。全国唯一の財政再生団体の首長として一過性ではない地域の風土に合った持続可能な地域社会の構築を目指している。廃線の新常識からどんな果実が生まれてくるか。
 

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