コロナ禍でヒットしているものの一つに、Cygames(サイゲームス、本社・東京都渋谷区)のクロスメディアコンテンツ「ウマ娘 プリティダービー」(以下、ウマ娘)がある。2021年2月のアプリゲームリリース以降、人気が広範囲に拡大。今では人気俳優の吉田鋼太郎、中村倫也、ももいろクローバーZの高城れにがCM出演しているほど。コンテンツ自体は、第1期のテレビアニメが2018年4月に放送されたが、今回の「ウマ娘」人気ははるかにそれを上回る。馬産地北海道の日高地方には、「ウマ娘」効果による観光客が増え続けているという。(写真は、うらかわ優駿ビレッジAERUにいる「ウイニングチケット」)

「ウマ娘」の注目すべき点は、これまで競馬と無縁だった人たちの関心を引きつけている点。「馬を擬人化した、かわいい女の子が目当ての、“萌え”好きな人たちだけの人気」と思われるかもしれないが、そうではない。例えば過去の名勝負の実況など詳細に再現したウマ娘たちの熱いレースは、青春スポ根ものとしても共感を呼び、サイレンススズカやライスシャワーといった、実際には哀しい最期を遂げてしまった競走馬たちが、「ウマ娘」の世界では元気にその後も生きているという実際とは異なる幸せなストーリーも、支持されている理由の一つのようだ。そんな「ウマ娘」人気もあって盛り上がりを見せている競馬界。中でも北海道の日高地方は、国内屈指の馬産地として知られる。この人気が地域に何をもたらしているのか。

 日高管内浦河町にある観光宿泊施設「うらかわ優駿ビレッジAERU(アエル)」は、かつての重賞レースを勝利した功労馬を含む、多くの名馬と文字通り“あえる”のが売り。現在いる功労馬は、1993年の日本ダービーG1などを制したウイニングチケット、2007年の高松宮記念G1や阪神カップG2を勝利したスズカフェニックス、2004年のジャパンカップダートG1、2005年・2006年連続のJBCクラシックG1、2005年の帝王賞G1と数々のG1ダートレースを勝ち抜いてきたタイムパラドックス(2022年2月10日に死亡)の3頭。このうちウイニングチケットは「ウマ娘」にも登場していて、ゲームでは自分で育成できるプレイアブルキャラクターになっている。

 コロナ禍で「AERU」の来館者は減少しているが、それでも全国から競馬ファンや乗馬愛好家、馬好き、動物好きの人たちが訪れ、大きな落ち込みからは免れている。そんな中、2021年2月以降から明らかにこれまでの客層と違う若い男性の来館者が増え始めているという。ちょうど「ウマ娘」のリリース以降と一致する。AERU乗馬課の太田篤志マネージャーは、「これまでは、功労馬はいますか?見学できますか?という質問が多かったが、今はウイニングチケットはいますか?という具体的な功労馬の問い合わせが増えました。話を聞くと、『ウマ娘でウイニングチケットを知って会いに来た』と言う人が大半。ウマ娘がきっかけで来られた方々の中には、競馬に詳しくない方もいますし、実際の馬に触れたり見たりするのが初めてといった方も珍しくありません。こうした客層のお客さまが来られたことは今までにはなかったことですね」と話す。AERUの売店でも、ウイニングチケットのグッズが飛ぶように売れ始めたという。

「ウマ娘」がきっかけで、「AERU」を訪れている人たちは大半が道外から現地入りしている。新千歳空港から「AERU」までのアクセスは良好とは言い難い。日高本線が廃線となった今では、よりアクセスは厳しくなった。公共交通機関の一つである浦河と新千歳間の高速バスは、土日祝日だけ1日1往復運行の予約制ジェイ・アール北海道バス「特急ひだか優駿号」のみ。行きは新千歳空港を15時頃に出て、浦河町内着が18時前後。帰りは7時45分前後に浦河を出て、10時45分に同空港ターミナルに着く便しかない。「AERU」と最も近いバス停留所との距離は約8kmも離れている。それでも頼みとなっている「特急ひだか優駿号」だが、この便も3月27日で廃止される。その日以降は、えりもと苫小牧を結ぶバス「特急とまも号」しかなくなってしまう。

 新千歳空港からのレンタカー利用という手段もあるが、高規格道路の日高自動車道は片側1車線区間が長く、道外から訪れる人たちにとってハードルは高い。こうしたアクセス難にもかかわらず、「ウイニングチケットに会いたい」という思いで、「ウマ娘」ファンの若者たちは日高を目指してやってくる。いわゆる“推し”のためには、労を惜しまない行動力には目を見張るものがある。「ウマ娘」ブームは新千歳空港のレンタカー需要の一角を担うことになるかもしれない。

 浦河町では2021年11月15日から2022年1月末まで、「ひだかサラブレッドタクシー」というモニターツアーが行なわれた。これは浦河観光協会が観光庁の実証事業に選定されたことを受けての取り組みで、運営は地元タクシー事業者の日交ハイヤーが担った。
 モニターツアーの内容は、「AERU」をはじめ、町内の生産牧場や養老牧場、調教施設、ホースセラピー施設など馬に関わるさまざまなスポットをタクシーで巡るというもの。ドライバーはガイド役も兼務した。期間中、42組がこのモニターツアーを体験した。ドライバー兼ガイドを務めた木田佳孝さんによると、参加者のうちおよそ半数が「ウマ娘」のアプリゲームプレイヤーで、「ウマ娘を知っている人は8割いました」と話した。(T・T、次回に続く)


19人の方がこの記事に「いいんでない!」と言っています。