ーーコロナ禍によって北海道経済の課題がより鮮明になったと思います。ウィズコロナ、アフターコロナの北海道経済についての考えを聞かせてください。

 石井 このコロナ禍で一極集中型や密集型の社会経済構造のリスクが顕在化しました。今後は、それらから脱却していくことが必要です。製造業では、単線型のサプライチェーンをBCP(事業継続計画)の視点を含めて複線化していかなければなりません。働き方の意識も変わってきましたから、これに向けた対応も必要でしょう。ライフスタイルも働き方、ビジネスモデル、そしてこれらに伴う人々の意識にも不可逆的な変化が起きており、過去の延長上で対応していくことは非常に難しくなっています。
 北海道経済同友会の提言書をまとめた中にも書いていますが、今年のダボス会議のテーマは『グレート・リセット』でした。まさしく、『グレート・リセット』をして、すべてをやり直す、考え直すことが求められる時代になりました。そこに我々自身がしっかりと対応していく必要がある。道内経済界では、産学官挙げてこの『グレート・リセット』に向き合い、様々な取り組みをしなければなりません。

 ですが、私は全く悲観的には考えていません。この変化は、北海道にとってはチャンスだと思っています。北海道の基幹産業である食や観光は現在、大変厳しい状況に直面していますが、今後を見据えてより一層の良さを追求できる機会でもあります。今までは、食の分野については、北海道ブランドの追い風に助けられた面もありましたが、これからはグローバルスタンダードの認証を獲得すべき段階に来ていると思います。観光についても、海外からのお客さまだけでなく、国内のお客さまへの対応を強化していかなければなりません。マスツーリズムから脱却して様々な需要に対応できる、きめ細かなサービス機能を充実する必要があるでしょう。インバウンド依存型、マスツーリズム依存型の画一的なサービスから個々のお客さまへのサービスを追求していくようにすれば、長期滞在型観光に変わっていくのではないでしょうか。このチャンスをしっかりと取り込まないといけません。

 あまり報道されていませんが、総務省が都道府県別のサテライトオフィス数を公表していて、令和元年度は74例で全国一位になっています。北見や網走など道内各地で受け入れの取り組みをしていますが、今後はニセコに本社を移転したルピシアさんのように、北海道に移転してくる企業も増えてくるでしょう。そうした動きに、私たちは積極的に産学官で連携して、そうした動きに対応していくことが必要だと思います。
 もちろん、努力も不可欠です。北海道は広域分散型で物流の生産性が低い課題がありますが、それもどんどん変えていくチャンスです。JRの貨客混載実験や道の駅を利用した集荷実験など、イノベーションを次から次に巻き起こしていければ良いと思います。

 ーーこれから北洋銀行や北海道を担う世代に望みたいこと、期待したいことは何でしょうか。

 石井 今回のコロナもそうですが、変化は絶え間なく起こり、想定していない事態も起こるでしょう。それを敏感に察知してイノベーションを次から次に起こしていく人材が必要です。決しては難しいことではなく、既存技術や既存知見の組み合わせでもイノベーションは生み出せるものです。若い人たちがそういう発想と行動で新たな事業をどんどん展開し、銀行としてそれらの取り組みをしっかり応援していってもらいたい。北海道の可能性を徹底して追求してほしいですね。

 ーー最後に退任後はまず何をしますか。

 石井 そうですね、住んでいるマンションから見える藻岩山にでもとりあえず登ってみようかなと思っています。(この稿終わり)



23人の方がこの記事に「いいんでない!」と言っています。