(写真は、大地みらい信用金庫本店)
ーーコロナ禍が、長引く状況で生き延びる取引先と生き延びられないと取引先が出てくるのは避けられないと思います。その見極めのタイミングも必要になってくるのでは。
遠藤 水産の街・根室は、200カイリ規制以降、コロナがなくても大変な状況がずっと続いています。2016年にはロシアによってサケマス流し網漁も止められてしまいました。トレンドはずっと苦しいままです。札幌の街並みが伸びて、十勝の農業が安定的に発展しても、水産地域の根室は基本的に厳しい状況なのです。
当信金の業績が何とか維持できているのは、取引先の努力の部分が大きい。それはどういうことかというと、魚が獲れなくなったのは、急に起きたことではありません。長い期間、地域や取引先には強いアゲンストの風が吹いてきました。このアゲンストの風を感じ続けることによって、取引先の皆さんは、ご自身でリスクマネジメントを行っています。余力のあるうちに業種を多角化しておくとか、札幌などに不動産を買っておくなど、それぞれの体力に応じて相当早くから対応しています。油断しない心、先を見ながら手を打っておくという経営者がいるので、根室は逆風が重なっても耐えていけるのです。アゲンストの時にこそ学ぶことが大変多いということです。
地域の企業が、体力に見合った挑戦をするなど厳しい環境の中でどんな手を打とうとしているのか、あるいは事業承継を進めた取引先の皆さんが将来の経営をどう考えるのか、そこが最大のポイントです。金融機関側が取引先を見極めるというよりも、取引先がどういう生き方を設定しているのか、これを良く見て行くことに尽きるのではないか。
私たちは取引先の決算書を努力の結晶として見させていただきますが、2~3期の決算書を見て、「良い」「悪い」と言っているようではいけません。先代や先々代の時代から、環境変化をどう乗り越えてきたか、そこを見なければいけない。経営者の生きざま、生きる意志が大事。経営者は、厳しい時にこそ磨かれます。耐久力のある経営を保ちながら攻めに行くことができる経営者が育ってくると、地域マクロ的には厳しそうに見えますが、いろいろな展開が可能になると思います。
ーー厳しさに強い企業は、根室や釧路に多いですか。
遠藤 水産が厳しくても、ゆるぎない経営を続けている取引先もあります。原材料を全道どこからでも集められるようにしている企業、不足している魚の仕入れをできるように全道でパーナトーシップを構築している企業もあります。苦しい時に一緒に対話できるのは、信用金庫の仕事として一番良いところではないでしょうか。状況が回復してきた時に、私たちも経験がありますが、取引先は『あの苦しい時に助けてくれた』と声を掛けてくれます。取引先が苦しい時にきちんと見極めて、手を差し出したかどうかは、経営者は一生覚えているものです。取引先との緊密な関係は時間が培うこともありますが、やはり厳しい局面を共に乗り越えていく局面から培われるメンタリティそのものだと思います。
ーーところで、札幌支店は開設5年が過ぎました。預金、貸し出しの状況は。
遠藤 札幌支店の預金量は約82億円、貸出量は170億円から180億円で推移しています。2015年7月21日の開設から5年間でこれだけのボリュームになったので大変ありがたい。貸し出しについては、特定のロットの大きい不動産向けを増やしていくのではなく、地元の根室、釧路での融資姿勢と同じようにオーソドックスに取り組んできました。貸し出し先数は約230先、預金を含めた総先数は約1500先です。一時的な縁というよりも、長くお付き合いできる関係を築くようにしています。
ーー札幌支店の貸出先は新規開拓先が多いのですか。
遠藤 札幌支店の貸出先はほぼ全部が新規の取引で、ゼロから開拓した先が大半ということです。札幌で新規取引が始まって、その取引先から新たに顧客を紹介していただくパターンが多い。ちょっとした繋がりを大事にさせていただいています。札幌支店の数字だけが伸びれば良いのではなく、根釧地域と道央圏の架け橋の役割を持つという考え方は変わっていません。現にAIやIoTなど札幌圏の最先端の取引先と根釧地域の取引先との交流も始まっています。札幌に出てきたタイミングも非常に良かったと思います。