――ニセコについて、少し批判的な目を持っているようですね。
星野 ニセコに限らず、日本全国の観光のあり方に課題があると考えています。観光で商売をしている身としては、将来に対する懸念や不安は何かということを当然考えます。日本全体が抱えている課題は、やはり前述したブームをつくって壊すことの繰り返しを止めることです。インバウンドをブームで終わらせないために、もっと真剣に考えるべきです。過去10年の観光の成長を見ても、持続可能な継続的な成長ではない。まさにブームのパターンに入っています。ブームは、崩れないと誰も気づかない。インバウンドの次はもうありません。過去の反省から、インバウンドをブームで終わらせないための策を今、しっかりと考えておくことが必要です。
北海道のインバウンドブームの代表がニセコです。先ほど、私は欧米豪からの入り込みを一定比率で確保することが大事という話をしましたが、その人たちが離れていっている。料金が高くなったことで雰囲気も変わり、雪もよくよく見てみたら、日本のあちこちにもっといい雪がたくさんあると。八甲田山や旭岳のロープウェイで2時間待ちをしても、そちらに乗ろうとか、白馬にはすごくいいところがたくさんあるなどの情報が広がることで、ニセコからコアなスキーヤー、スノーボーダーが離れている。私の本拠地は長野ですから、そのことをひしひしと感じます。欧米豪のコア層は白馬や志賀高原にパウダースノーを求めるようになっています。
――旭川と富良野とトマムも一つの受け皿になっているのでは。
星野 旭川、富良野、トマムの「パウダーベルト」は、コア層にターゲットを絞った誘客作戦です。目先の収益も大事ですが、長期的に持続可能なブランドイメージの構築、維持はもっと大切。そのために「パウダーベルト」というネーミングにしてコア層を引っ張ろうという戦略です。トマムは、自分たちでコントロールできるので一生懸命取り組んでいますが、ブームで終わらせず長期的にリピートしてもらうための仕組みづくりは、これからだと思っています。
――「OMO3(おもすりー)札幌すすきの」で札幌に進出しますが、他のホテルとどう差別化しますか。
星野 都市ホテルには競争相手がたくさんいます。「OMO」は都市観光客に焦点を絞ったブランド。観光客だけのニーズを捉えようとすると、ビジネスホテルで行っていた多くのことをやめられますし、逆にビジネスホテルがやっていなかったことをたくさん取り入れなければなりません。そこが「OMO」のポイントです。「OMO」のブランド力が付いてきて、「都市観光ならOMOだよね」という「OMOファン」をつくっていくことが大事です。日本の国内観光客は、日本中をあちこち移動しますから、その方々のニーズに各都市で応えていく安心感、信頼感を築くことが、札幌や小樽の「OMO」が成功するポイントです。
ある程度の期間で、一気に「OMO」を全国に拡大する予定です。「星のや」や「界」は、先行しているのでファンがたくさんいますが、「OMO」はまだ始まって4年ぐらいで施設も少ないので、これからです。しかし、コロナ禍で一番誘致のお話しをいただいたのは「OMO」。日本全国の「OMO」ネットワークは、ここ3年、4年で急速に普及するでしょう。
――ちなみに「OMO」の意味は。
星野 「OMO」に特に意味はありません(笑)。面白いとか、おもてなしとか色々予想される方がいますが、どうやって決めたかというと、「界」もそうですが、インバウンドの時代になり、海外のエージェントが覚えられない名前は通用しないのです。覚えやすく、海外の人も発音しやすい。なおかつ商標が取れる3つの条件を満たすブランド名はそこまで多くない。私たちの都市型ホテルには、「OMO」とカジュアルブランドの「BEB」(ベブ)がありますが、この「BEB」も同様です。
――星野代表が北海道の中で一番好きな場所はどこですか。
星野 トマムから車で20分ほど離れた狩振(カリフリ)岳には、極上パウダースノーの場所があります。そこでキャットスキー(圧雪されていない雪山をキャット=雪上車で登り、スキーやスノーボードで滑り降りるツアー)を展開していますが、あそこに行くと、北海道は本当にすごいと感じます。日本の経済がどうなっても、きっとここには、良い雪が降り続けるだろうと、いつも思います。「中東には石油が出るが、北海道には雪が降る」と私は常々言っています。白い雪が降ってくることは、まるでお金が降ってくるようなもので、価値が降ってきている。もしかしたら、石油よりも雪のほうが価値が出る時代が本当に来るのではないかと私は思っています。
――星野リゾートの年商規模と道内の客室規模はどのくらいですか。
星野 私たちはホテル運営会社ですから、取扱高ということになりますが現在は約600億円です。道内の客室数は、近く北海道の業界で最も多くなる予定です。星野リゾートは北海道の会社ではないものの、トマムでは18年間も展開しているので、北海道の事業者と呼んでいただきたいです。今まで以上に、北海道の方々に信頼していただくため、今回、「セコマ愛」のファミリーに混ぜていただきました(笑)。
――本社を北海道に移すお考えは。
星野 本社を北海道に移す考えはありませんが、私は移りたいです。北海道は花粉はないし、雪はたくさんあるし、最高の場所ですから。
ーーありがとうございました。