――ウィズコロナ、アフターコロナの北海道観光をどうみていますか。

 星野 北海道を含めた日本の観光は、過去に様々なブームをつくってきました。修学旅行ブームや団体旅行ブーム、あるいはカニを食べに北海道に行くカニ旅行ブーム、スキー旅行ブームもありました。こうしたブームは、流行なので一時的に盛り上がりますが、急激に萎んで持続しません。観光産業が地域の産業として、長期的に持続できるようになるためには、ブームにしてはいけない。
 なぜ北海道を含めて、日本の観光は盛り上がっても継続ができないのか。そういう視点で、私は今の日本の観光のあり方を見ると、コロナ禍で中断していますが、国は近い将来にインバウンドを6000万人にするという目標を立てています。10年、20年先から振り返った時、これもインバウンドブームで終わってしまうことを懸念せざるを得ない。

 長期的に持続可能な観光産業にしていくためには、これ以上ブームをつくってはいけない。一度訪れたお客さまに満足していただき、翌年にはさらにより良い場所になるように投資をして、何度も何度も来てもらえるような、リピーター中心の環境にしていかなければいけない。このことが、北海道の大きな課題ではないかと私は思っています。成長ではなく、どうしたら持続するかを考えることです。
 ブームをつくってしまうひとつの要因は、観光の評価を常に対前年度比の入り込み数で見ていること。昨年より何人多く来れば成功で、少なかったら失敗ーー自治体も観光産業も、とにかく昨年よりプラスにするため、極端なことを言うと安売りをしてでも人数だけを増やそうとする。これは、流行で終わる兆しです。こうしたマーケティングの方法自体が、私はブームをつくっていると思います。

 北海道は一時期、カニが非常に注目されていました。北海道に、そのためだけに来ることもありました。そこで、北海道は、カニのシーズンが外れた後は冷凍のものを出すようになりました。冷凍にして、1年間提供できるようにすれば、1年間入り込みが続くと考えたのでしょう。しかし、冷凍にしたりすることで味が落ち、入り込み客数が減りました。すると今度は、カニをバイキングの食べ放題に出すようになりました。食べ放題にし、冷凍にしたことで、ますます食事の値段が安くなり、結果的にカニの足がどんどん細くなっていく現象が起き、カニ観光は流行で終わったのです。
 ところが、北陸は未だにシーズン以外のカニの提供を原則禁止してます。解禁日は11月の初め。そうなると、季節の風物詩になり、翌年の2月まで北陸はカニの観光で盛り上がっています。前年比でプラスにするため、顧客満足度を考えずに目先の策を取ることが、観光地にとって一番マイナスに働いてきたのではないか。

 課題は、まさにそこです。どんな人が来ているのか、リピーターはどのくらいなのか、満足して帰っているのかなどを指標にしなければいけない。インバウンドであれば、どのくらい金額を消費しているのか、どのくらい長く滞在しているのかなどを含めて評価しなくてはいけない。
 そういう評価基準を持っている自治体は少ない。山口県の長門湯本温泉では、星野リゾートが温泉街全体の再生プロジェクトに関わっていますが、あそこは今、そういう目標設定をして温泉街で働く従業員の満足度も調べています。正社員比率を上げていくには、その人たちの年収レベルの目標も持たなくてはならないからです。そのことによって、楽しく仕事ができる温泉街にしていこうと。

 ――白老町とも連携協定を結ばれていますね。

 星野 今まで観光地としてそれほど有名でなく、観光産業があまり大きくなかった自治体が観光に興味を持ってくれたのが、白老町のケースです。かつては、工場誘致が自治体の大きな仕事でしたが、工場がベトナムや中国に移転してしまい、結局何も残らなかったところもあります。
 地方の雇用減少や人口減少にどう歯止めをかけていくかという時、観光産業に非常に期待をかけている自治体は多い。そのうちの一つが白老町です。京都府和束町や奈良県明日香村とも同じ連携協定を結んで、役場との人材交流も始めながら、リゾートをつくっていくことに取り組んでいます。

 ――阿寒や登別、定山渓、など道内観光地には進出しないのですか。

 星野 そんなことはありません。私たちは運営会社なので、所有者(オーナー)から声を掛けていただかないと、なかなか進出できない。そういう有名観光地から、声を掛けていただく機会さえあれば、いつでも出て行きたい。箱根や伊東の2軒もそういう形で進出していますし、那須も既存施設の再生ということで私たちに声を掛けていただいた。建物を所有しない会社なので、北海道の観光地から声を掛けていただければ、是非行きたいと思っています。



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