星野リゾート(本社・長野県北佐久郡軽井沢町)が、今年に入って北海道で相次いで宿泊施設を開業している。近く、道内最大の客室を擁する運営会社になる。北海道展開を強化する中で、道内コンビニチェーンのセコマ(同・札幌市中央区)と連携したプロジェクトも2月から始める。星野佳路代表にセコマと組んだ理由や北海道観光の発展に何が必要なのかを聞いた。〈ほしの・よしはる〉…1960年生まれ、長野県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程終了、1991年星野リゾート代表就任。

 ーーセコマと連携した「旅々貯まる北海道旅プロジェクト」が2月1日からスタートしますが、セコマと手を結んだ経緯は。

 星野 毎年2月下旬から3月頃に北海道に来てスキーをする機会が多いのですが、一緒に来ていたスタッフの「セコマ愛」がとても深いことに驚いたのがきっかけです。車でコンビニに行く時に、わざわざ遠くのセコマまで行こうとします。セコマという会社は、なぜそれほどまでに道民を惹きつけるのか、と研究を始めました。そうすると、ネットワークはもちろん大きいですが、ネットワークを維持するための活動が、マイケル・ポーターの戦略に一致していました。そう簡単には、国内大手コンビニに負けない仕組みができあがっていたのです。セコマと組むことは、私たちにとって、すごく良いことだと思いました。もし、北海道にスキーを滑りに来ていなかったら、気づかなかったかもしれません。

 ――セコマとの連携で2月1日からセイコーマートクラブ会員限定で、宿泊価格を最大3割引にしますが、値引き幅が大きいですね。

 星野 一般的にホテルの宿泊価格は、ダイナミックプライシング(需要に応じて価格を変動させる仕組み)を採用していますが、変動幅が大きすぎる難点があります。私たちは、10年ほど前から、変動幅を狭めようと努力してきました。顧客との信頼関係をつくっていくブランディングの観点から言うと、変動幅の大きいダイナミックプライシングは、信頼に繋がらないからです。
 私たちは、変動幅を狭めて、ある程度高単価を維持してきました。価格設定の高い土曜日やゴールデンウィーク、お盆の満足度もしっかりと取ってきました。それだけのお金を払っても満足していただけるサービス、商品になっていると思います。
 北海道観光は、東京や大阪の人たちに来てもらうことを想定していますが、インバウンドが急激に増えて、総需要が増えたので、価格設定のレベルも高止まり傾向にありました。北海道の方々に、もっと頻繁に私たちのホテルに来てもらうために3割ほど下げても、それを吸収できる体質になっています。北海道の方々の旅の事情に合わせて、世界標準から3割ぐらい値引くのは、理にかなっています。

 ――主要なターゲットはファミリー層ですか。

 星野 セコマと提携に踏み切った大きな背景の一つは、WBFの再生を担っていること。一昨年は、WBFのホテルほぼすべてに泊まりました。その後、株式譲渡契約を締結しましたが、WBFのホテルは、ファミリーのほかビジネス利用も多い。函館や釧路、旭川のホテルにはリピーター客がいて、大半がビジネス目的。今回のセコマとの連携では、道内のWBF施設を含めてグループ全体で11施設、約2100室を対象としています。トマムが大きく目立ちますが、観光客だけではなく、ビジネスを含めて北海道の方々に多く利用してもらいたい。そのことがWBFの再生にも繋がります。

 ――2004年にトマムを引き受けた後の北海道展開は、旭川グランドホテルを承継した「OMO7旭川」(2018年)まで時間がありました。北海道を重視するようになったきっかけは何でしょうか。

 星野 私たちは、運営会社なので、マスターブランドとしての「星野リゾート」と5つのサブブランドのブランド力強化、競争力強化を狙っています。2004年段階では、軽井沢と八ヶ岳、会津磐梯、そしてトマムの4拠点しかありませんでした。その後の「界」、「星のや」の展開では、首都圏周辺の観光地からまず声が掛かりました。オーナーや投資家が、どうしてもそちらに注力することが多く、私たちのブランド力アップにもプラスだったからです。
 それが一巡して、箱根、熱海、伊東、那須に展開することができ、星野リゾートのブランド認知率も国内でかなり上がりました。インバウンドの時代になってからは、海外のマーケティングでも成果を上げてきました。トマムも大きな収益を出し始めていました。ところが、星野リゾートファンの人たちが行く先として、九州、沖縄、北海道の拠点が極端に少なかった。拠点が少ない地域で案件を増やそうということになるまでにある程度の時間が必要だったことが、トマム以降、北海道展開に時間がかかった理由です。
 北海道で運営施設が増えていますが、九州でも急速に拡大しています。星野リゾート全体のブランド力強化の一環として、結果的に北海道の施設がこの時期に急速に増えつつあるということです。



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