アトリエ・モリヒコ市川草介代表取締役インタビュー①「人生がポジティブになる空間」

人物・人事

 僕は、父の下でサラリーマン生活です。そのころから現在の「森彦」の前をいつも通っていました。当時はその家には人が住んでいました。デザイン事務所で働きながらもカフェ、喫茶店経営は捨てがたかった。クリエーターにとってコーヒーは切っても切れないからです。まず起きぬけにコーヒーを飲まないと一日が始まらない。「仕事をするぞ」というときにもコーヒーをまず口に入れてから始める。カフェが自分の仕事場の近くにあればいいなと、ずっと思っていました。空想していたのは、カフェとデザイン事務所が併設しているオフィス。父のオフィスはさすがに手狭で実現できなかった。後に「森彦」となる古民家を見ながら、「ここでカフェをやれたらいいな」とイメージしていました。

 そうこうしているうちに、ひょんなことから住んでいる人が引っ越して、あの古民家を手に入れることができ、温めていた構想を動かすことにしたのです。こういうことを言いだすのは、いつも僕です。父は、「いいよ、いいよ」と軍資金を出してくれました。大工道具を腰にぶら下げて手作りでカフェを作っていきました。

 実は、その5年前にはデザイン事務所の1階に「月菴」という名前の茶室を作りました。小さいながらも茅葺の屋根です。茅を田舎からもらってきて、中央図書館で古民家の古い文献を読みながら屋根の葺き方を覚えていきました。22~23歳のころでした。
同様に手に入れた古民家も改装を始めました。3年かかりましたね。それを考えただけでも商売人ではありませんよ(笑)。自分が気に入るまでずっと手直ししているのですから。

 ーー「森彦」の名前の由来は。

 市川 命名したのは父です。「海彦、山彦があるのだから森彦があってもいい」と。父は森が好きで自分のデザイン事務所の名前を「モリシス」にするなど「森」をキーワードにしていました。父と一緒に仕事をしたデザイン事務所の名前も「フィールドノート」、野帳という意味です。父は自然、ネイチャーから引き出されるクリエーティブな感性をすごく大事にしていた。僕も大きな影響を受けました。今も僕の発想にはネイチャーがあるし、僕自身もアウトドア派で毎週のように野山を掛け回っています。「森彦」は円山の森が近い木造民家ということなど、いろんなことが重なって名前を付けてくれた。今思えばその名前があって今日がある、というくらい良い名前を付けてくれたと父には感謝しています。

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