今年7月に関西国際空港と大阪国際空港が経営統合し「新関西国際空港」が本格的にスタートした。同社が目指す空港像は「アジアのリーディングエアポート」。韓国・仁川(インチョン)空港の背中が見えなくなるほど日本の空港は世界の空港から取り残されているが、新関空は日本の空港ビジネスモデルを変革する大きな役割を担う。変革の具体像を示すまでの期間は2012年度から14年度までの3年間。この期間で新関空の事業運営権を民間にアウトソースする経営の中身を形づくらなければならない。22日、札幌グランドホテルで新関空の室谷正裕常務が経営戦略を詳細に開陳した。室谷常務の講演骨子をまとめた。(写真は、講演する新関西国際空港の室谷正裕常務)
『新関西国際空港は、2012~2014年の3年間が勝負で徹底的に収益にこだわることにしている。重点プロジェクトのひとつが、LCC(格安航空会社)による成長マーケットの取り込みだ。成長のドライブとしてLCCをしっかり位置付け、LCCの拠点空港化、いわゆるマザーポート化を進める。既にピーチ・アビエーションに関空をマザーポートにしてもらった』
『LCCは機材の高い回転率によってローコストを実現している。LCCの高い回転率を実現するためには深夜早朝の離発着といった空港の自由度が高いことが求められる。今年、日本はLCC元年だが、既にアジアでは3割、欧米では4割がLCCで占められている。全世界を見ても4分の1がLCCで占められ、LCCはこの10年間で3倍になった。今やLCCはメジャーな航空会社だ』
『10月28日にLCC専用の第2ターミナルビルがオープンした。第3ターミナルの整備も進めていき、国際線におけるLCCの比率を14年度には25%にもっていきたい。今年の夏ダイヤでは14・4%がLCCだった。この期間で成田は2・2%、中部は4・5%がLCCだったが、関空はLCCのウエートが高い。冬ダイヤ期間は18・9%になる』
『なぜLCCにこだわるのか。LCCは前述したように多頻度運航で、1日8回もの離発着をする。24時間運用可能な2つの滑走路があり、地理的な優位性もあるのが関空だからだ。LCCの機材は座席間隔が狭く、乗っている時間は4時間が限度とされている。首都圏からLCCでアジア各国に向かうと1時間は余分にかかる。その分でも関空に優位性がある』
『航空貨物についてもハブ空港化を目指していく。地元経済界や自治体と連携して集貨とともに創貨にも取り組んでいる。創貨とは例えば医薬品や食などの新しい貨物需要を創っていくことで、例えば神戸ビーフを中国に航空便で運ぶことなども想定している。追い風になるのは、世界的な航空貨物輸送のフェデックスに関空を北太平洋の貨物ハブに選んでもらったこと。仁川と誘致合戦を展開したが、関空が選ばれ、施設整備をして14年春からオペレーションが始まる』
『冬ダイヤは10月28日から始まったが、国際線の着陸料を11年ぶりに5%下げた。これは第一弾で、さらなる値下げをする。増量(増便)した場合に1年間は着陸料80%オフにするサービスも始めた。さらに地元経済界で作る促進協が残りの20%を補助してくれるので増量しても初年度はタダになる。この割引制度は2年目以降も続けられるような複数年化を実施していく。1年目は80%オフで、2年目は50%オフ、3年目は30%オフというように。促進協もそれに合わせて補助率を徐々に減らし、増量が図りやすい体制を整え、来年3月末から始まる夏ダイヤから適用する。また、深夜早朝は50%オフにして就航を促す。伊丹はプロペラ枠の運用を見直して低騒音機を誘導して環境負荷の低減を図っていく』
『関空は都心部から遠くて運賃も高いというイメージが定着してしまっているが、連絡橋など施設使用料を引き下げ、鉄道料金の値下げが今冬から始まる。関空ちかトク切符なら980円で行けるようになる。また、今年5月からLCC対応の早朝・深夜時間帯にリムジンバスの運行を開始した。梅田発朝4時40分のバスが出ているが、毎日30~40人が乗っている。伊丹と関空の連絡バスはこれまで1900円だったが、7月20日からタダにした。同じ会社の空港を結ぶ連絡バスと位置付け無料化したが現在は1日100人程度の利用だ。今後、両空港を利用した旅行商品の開発も促進していきたい』
『インバウンドを促進するためには諸外国へのトップセールスが大事だ。我々空港会社だけでは効果が薄い。地元の経済界の関西経済連合会や大阪商工会議所のトップ、大阪府や大阪市などと連携したトップセールスは、11年度に11回のプロモーションを実施した。それによって目に見える成果が上がってきた』
『商業エリアの拡充については、新千歳空港ターミナルビルを見てとても勉強になった。ドラえもん、温泉、シアターなどのエンタメ施設、それにシュタイフネイチャーワールドはとても教育的で素晴らしい。商業エリアもコンセプトがしっかりしてスイーツや北海道の物産品がきちんと分かれて集積しているのでわかりやすい。新千歳の素晴らしさを目の当たりにしたので参考にさせてもらいながら、伊丹で実績のあるOAT(大阪国際空港ターミナル)に関空の商業系をすべてやってもらう。また高収益の免税売店は40%のフロア増床でインバウンド旅客をターゲットに展開する。こちらはNKIAC(関西エアポートエージェンシー)が担当する』
『これまでの全国各地の空港収支は過大に見積もられてきた傾向がある。しかし、新関空は3年間が勝負で、この3年間というのはアウトソースする際に投資家が運営できるのかどうかをトレースする期間。いい加減では信用されなくなるからできる限り保守的に数字を見積もった。12年度中間期は470億円の売上げがあったが、関空の通期での営業収益914億円は達成可能。伊丹との経営統合で、今年7月から来年3月までの伊丹収益分94億円が通期にオンされ、1008億円の売上げになる。また、OATが100%経営統合されて13年度は270億円オンされることも含めて1399億円、3年計画最終年度の14年度は1505億円の売上げでフリーキヤツシュフローは196億円と弾いている』
『新関空は、新千歳空港や福岡空港など全国に27ある国管理空港のモデルになればいいなと思っている。私は運輸省(現国土交通省)にいて、航空行政にもかかわってきたが、役人のころ日本の空港は世界をリードしていると思っていた。しかし、施設やソフトでも空港先進国ではなく世界に遅れを取っていることが分かった。今やインチョンの背中が見えなくなってしまっているほどだ。空港会社は大家ではなく、選ばれる存在、ビジネスパートナーでなければならない。促進協など地域との連携やコラボを強め、明確なビジョンと強い意志で空を変え、日本が変わる先導役を果たしていかなければならない』