P1040555.jpg
 夜空に輝くネオンサインは、郷愁を誘う。ましてそのネオンが地酒となれば、ふるさとへの思いは一層募る。人々の琴線を揺らし続けてきた大通公園のネオンがひとつ、ひっそりと消えた。その名を『髙清水(たかしみず)』と言う。


 駅前通と大通公園が交差する北西角にある秋田銀行ビル。その屋上に『髙清水』はあった。
 世がバブルに向かうころ、大通公園周辺で働く人々の高揚感は、『髙清水』のネオンが増幅させた。夜のしじまに輝く赤と緑の発光は、見る人の心にその人が過ごしてきた過去からの軌跡を投影させる力があった。
 バブルが去り、駅前通を挟んで東にあった北海道拓殖銀行が時代の波間に沈んで行った後も、『髙清水』は孤高を貫くように静かに佇んでいた。
『髙清水』は秋田の地酒である。1600年代をルーツにする蔵元がベースになって1944年に戦時統合、終戦後にいくつかの蔵元は離脱したものの、統合会社が「秋田酒類製造」として再スタート。翌年に『髙清水』が誕生している。
 秋田市の寺内大小路に湧く泉の名前に由来しているという。
 秋田銀行ビルと屋上に聳えた『髙清水』は、秋田出身の道産子たちにとって郷里へ繋がる入り口だった。
 そのビルがまもなく解体され、4月から新ビル建設が始まる。既存のビルは秋田銀行と石屋製菓の共有になっているが、新ビルは北に隣接する石屋製菓の土地を含めて建て替えられるため、現在よりも一回り大きくなる。
 新ビルは地上12階、地下2階で外装に工夫を凝らし、明治時代の札幌を彷彿とさせるネオクラシックなビルだという。
 大通公園に面したビルの屋外に設置された広告物は、建て替え時に再び設置することは札幌市の条例で規制されている。
 札幌の街並みに溶け込んでいた『髙清水』のネオンが、再び大通に登場することはない。古びた焼き鳥屋で出てくる酒に、「あの『髙清水』」と言うことも出来なくなる。会話の中から「あの」が消えていく。
(写真は、秋田銀行ビルと屋上にある『髙清水』の広告物。現在、ビルは解体準備に入っており、この1週間が見納めになりそう)


この記事は参考になりましたか?