振り上げた拳を下ろすとはこういうことを言うのだろうか。旭川医科大学の吉田晃敏学長を巡る解任問題。同大学の学長選考会議が文部科学省に吉田学長の解任を申し出てから9ヵ月、同会議は解任の申し出を取り下げた。これにより同省に辞任届を提出していた吉田学長の辞任が認められた。(写真は、吉田学長の解任取り下げについて説明する学長選考会議の奥村利勝議長=左と川辺淳一委員。3月3日旭川市内)
在任14年の長期に及ぶ吉田学長を巡っては、パワハラや不正支出などの問題が噴出、同大学の現役やOBの教授らから解任を求める署名運動が巻き起こった。2021年2月、学長選考会議のもとに組織された調査委員会が調べた結果、34項目の問題行為が発覚。それをもとに同年6月24日、選考会議は文科省に吉田学長の解任を申し出た。その直前、吉田学長は辞任届を同省に提出。同省は吉田学長の辞任届を保留し、解任の是非を審議していた。
文科省は、吉田学長から意見を聞く聴聞を3回実施、最後の聴聞が2月3日に終了した。その後、選考会議に送られてきた吉田学長の弁明書には、調査委員会が指摘した問題行為34項目すべてに反論。この中には、自らが拒否した学長選考会議での弁明を、「させてもらえなかった」と述べたと記されていた。これに対し、選考会議は改めてパワハラや不正支出など3項目に絞って文科省に吉田学長の弁明書に対する反論を提出。文科省からは、「意見はこれだけか。追加があれば出してほしい」と求められた。
選考会議の奥村利勝議長は、「文科省は法律上揺るぎないレベルの証拠に基づいて慎重に判断しようしているという印象を持った。私たちの考えと相当な温度差を感じた。文科省とは、そのつどやり取りをしてきたが、解任を申し出た時、結論は『年内』と思ったが、それが『年度内』へと変わった。その後も文科省の慎重な態度を見る限り『いつ出るのか』という危惧を抱いた。学長の不在が長期化しており、大学の再生を考えた時、解任申し出を取り下げるのがベターな選択と選考会議内で一致した」と話す。
奥村議長は、「解任すべきという考えは、今も変わらない。解任取り下げは断腸の思いだが、早期の新体制移行を優先した」と強調した。解任申し出の取り下げにより文科省は吉田学長の辞任届を受理、吉田学長は3月3日に辞任した。選考会議は昨年11月、西川祐司副学長を次期学長に既に選出している。現在、西川氏の4月1日学長就任に向け、文科省に手続き中だ。
学長選考会議による学長解任申し出は、北海道大学でもあった。文科省は北大学長選考会議の解任申し出を受理、当時の名和豊春学長を解任したが、名和前学長は文科省と北大を相手取り解任の取り消し訴訟を提起、現在係争中。今度の旭医大学長の解任申し出を受け、文科省は北大のケースを参考にしている節がある。北大と旭医大を巡る2つの学長解任問題は、対照的な結末になった。ともあれ、旭医大の学長解任申し出の取り下げは、選考会議の見通しの甘さを露呈した。大学運営の正常化と解任取り下げは、同じ天秤に掛けられるものなのだろうか。