札幌学院大学河西邦人学長インタビュー「新札幌キャンパスで地域経済の教育エコシステムをつくる」

道内大学・教育


 ーー学長就任は2019年4月ですね。

 河西 学内では、就職部長を4年間務めて、その後、大学院の研究科長を1年務めましたが、管理職の仕事は5年ほどしかやっていません。学長になるには、学部長や就職部長、教務部長といった教員部長職を経験した後に副学長になって、学長に就くのが順当なルートです。私は副学長を経験していません。それなのに、学長選に出るように教員仲間に説得され、最初は固辞していました。どうしても出てほしいと強く言われ、出ることにしましたが、21年間大学にお世話になり、育てていただいたお礼を返さないといけない、という思いがあったからです。

 ーー学長に選ばれた理由をどう考えていますか。

 河西 学内の派閥のようなものに入っていないことがあったのかもしれません。また、学外にいろいろなパイプがあったことや、私が考えていたSDGsを通じて社会貢献をしていくことが本学の目的、理念に合致していたということがあったのかもしれません。

 ーー学長就任前から新札幌移転は決まっていたのですか。

 河西 そうですね。学長就任前の18年度に大学内を2分するような議論を経て、新札幌への進出が決まりました。私は、既定路線を進めてきたということです。ブランドロゴの変更や「ワンライフ・メニー・アンサーズ」というタグラインの決定も19年度にリブランディングすることを決め、その年の6月ぐらいに全教職員を集めたワークショップを開いて自分たちの原点は何か、どういうビジョンに向かって進むのかと検討を始めました。最終的に20年9月に、新たなブランドを決めました。

 ーーリブランディングも前学長時代の決定事項だったのですか。

 河西 そうですね、前学長時代にある程度、計画ができていました。リブランディングは組織改革に繋がるので、教職員全員参加のワークショップや学生など様々なステークホルダーの意見を聞く方法を取りました。私は、現在もNPOの理事長を務めていますが、NPOはまさにそういう進め方をしています。地域の方々も含めて、多様な意見をもらいながら自分たちで新しい社会のビジョンを掲げ、そこに向かっていく戦略をつくり実行していきます。リブランディングに際して、その方法を採用しました。

 ーー18歳人口の減少など、大学の入学者確保が課題です。

 河西 当大学の入学者確保が一番厳しかったのは、16年度でした。入学者は約580人で500人台まで減りました。以降、様々な改革を進め、20年4月の入学者数は953人に回復しました。本学の各学部をトータルした入学定員は790人ですから約160名多かった。21年4月は、比較的厳しく選考して入学者数を800人くらいにしようと考えていました。
 しかし、新型コロナウイルスの影響で大学入学共通テストや本学独自の入試に受験生があまり集まらなかったことに加えて、比較的が厳しめに対応したため、入学者は定員775人の中、774人で1名足りない状況になりました。

 ーー北海道の私大を取り巻く環境をどう認識していますか。

 河西 非常に厳しいと感じています。これから北海道では、毎年700~800人の18歳人口が減少していきます。北海道の場合、18歳人口に占める大学進学率が全国平均に比べると低い。大学進学に関して、高等教育の無償化という文部科学省が打ち出した新しい就学支援制度があって、所得が低い世帯の少年少女が進学する際の給付型の奨学金が制度化され、今まで大学進学を考えにくかった人たちも入学できるようになります。そのことを勘案しても、やはり18歳人口の減少は大きい。ただでさえ18歳人口に対して大学の数が多いと言われているので、ますます競争が激しくなります。きちっと選んでもらえる大学にならなくてはいけないという厳しい認識のもと、戦略を打っています。

 ーー北海道の大学は、札幌圏に集中しています。特色がないと生き残っていけない。

 河西 全道で見ると、札幌圏に人口が集まっていますから、当然若い人たちも札幌圏に集まる。札幌圏の大学でなければ運営は非常に厳しいと思います。地方の私立大学は、公立大学化を進めているケースもあります。授業料が比較的安くなるため、札幌圏の国立大学よりも地元の公立大学を選ぶ人たちも多くなっていくでしょうから、それはそれで戦略と言えます。
 札幌圏にキャンパスを構えていても、競争に勝ち残っていかなければならない。本学も江別キャンパスだけでは埋没してしまいかねないため、先ほどお話をした入学者確保が非常に厳しかった時期に、新札幌に打って出ることにしたのです。たまたま新札幌は、市が公営団地の土地を売却して再開発を行うという中で、当大学に話が来たので思い切って出ることにしました。かなり大きな投資になったことは事実です。

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