ーー地方の菓子メーカーは経営が厳しい。M&Aの話も多いのでは。
長沼 そういう話は結構あるようですが、私のところよりも息子のところへ来ているようです。グループ化するかどうかは、私の判断というよりは、息子の判断ですね。当社グループが目指しているのは、北海道のお菓子でナンバーワンになること。北海道は、お菓子の原料素材の宝庫で、夢のある大地です。札幌は、都会的な要素があって、スイーツが似合う街だということで推進協議会を組織して、スイーツの街にしようと行動してきました。
札幌だけでなく、北海道という枠で捉えたら、北海道は菓子王国になり得ます。そういうこともあって、2025年に旭川で全国菓子博覧会を開催することを決めました。100年以上伝統のあるこの全国菓子博は、55年前に札幌で開催されています。旭川での開催は28回目ですが、6年前に三重県伊勢市で開催されています。2年後ですから8年ぶりの開催となりますが、実は、全国菓子博誘致に手を挙げるところがなくて、このままでは全国菓子博の存続もままならなくなってしまう状況でした。私は全国菓子工業組合連合会の理事長も経験しましたから、思い切って誘致することにしました。全国のお菓子屋さんに、北海道産の小豆やもち米が供給されていますから、そうした素材の力を生かして、北海道が菓子王国となるきっかけづくりにしたいですね。
ーーきのとやなど北海道コンフェクトグループには、後継者もいます。
長沼 息子が中心になって経営する体制を早くとってくれと言っています。
ーー息子さんへのアドバイスは。
長沼 自分が好きなようにやるのが良いと言っています。「こうしたい」と言ってきたことに対して、私は一切否定をしません。今までも、「ノー」と答えたことはありません。
ーーチーズタルトの「BAKE」を大きくされ、会社を売却したことについてはどう評価していますか。
長沼 判断としては、すごく良かったと思う。あれ以上の判断はなかっただろう。そのまま継続していても、うまくやれたかもしれないが、当時は、M&Aで会社を売却することよりも、上場を目指していたようです。上場するためには、きのとやも一緒でなければならなかった。きのとやが製造部門を担い、BAKEが販売をしていました。販売会社だけでは上場できないため、きのとやとペアでということでした。「上場をしたいのであれば良いのでは」と息子に言っていましたが、最終的には本人が売却を決めた。
ーー経営者として息子さんをどう見ていますか。
長沼 私をもう超えていますよ。もう全然(笑)、前から超えています。
ーーどの辺りが超えていると。
長沼 親バカと言われるけれど、本当に正直な思いを言えば、全ての意味で私を超えていると思います。10年以上前から、家内にはそう言っています。もちろん、本人には欠点もあると思う。人は良いところばかりではありませんからね。
ーーこれからの菓子業界の発展に必要にことは何か。次の世代に託することは何か。
長沼 「きのとや」はお菓子屋としては後発。まだ40年しか経っていない。お菓子の技術を含めて、業界の積み重ねは100年も200年もある。赤福さんは、300年以上も続いていますし、羊羹のとらやさんは500年以上です。北海道を見ても、歴史のあるお菓子屋はたくさんあります。洋菓子は歴史が浅いと言いながらも、先人たちの積み重ねたものの上に、私たちが成り立っていると思っています。
きのとやに最初に来てくれたパティシエは、小樽の館で働いていた職人です。そういった先人たちが積み重ねてきた努力の上に、私たちがあって、さらに私たちから独立していった人たちもたくさんいます。そう考えると、自分たちの力だけで、今があるわけではありません。
業界全体に恩返しをしていく必要があると、ずっと思っています。みんなで盛り上げて、みんなで良くなっていこうという思いは強いですね。全国菓子博の誘致に手を挙げたのもそうした思いからです。(終わり)