札幌や江別で、出来たてのパンを製造販売しているどんぐり(本社・札幌市白石区)。地域に密着したどんぐりは、競争の激しい出来たてパンの業界の中で、独自の存在感がある。従業員の探求心を引き出し、花開かせる社風はどんぐりの成長を裏付ける鍵とも言える。2023年秋、どんぐりは札幌中心部にオープンする複合商業施設に出店、新たな挑戦を始める。野尻雅之社長(45)に、経営についての考え方や新店舗の狙いなどについて聞いた。(写真は、インタビューに応える野尻雅之社長)

 ――閉店時に売れ残ったパンを冷凍にして、専用自販機で販売する取り組みが人気ですね。

 野尻 現在は、冷凍自販機2台で対応していますが、JR札幌駅にも設置する方向で話を進めているほか、病院内での設置も検討しています。2021年10月からは、北大の恵迪寮にも冷凍庫を寄贈して販売を開始し、札幌中央卸売市場内でも2021年2月から冷凍パン販売が始まり、広がっています。

 ――フードロス削減の一環で、展開されていると。

 野尻 そうです。冷凍パンを一般市場に流通させようとは思っていません。近い将来には、閉店時に各店舗で売れ残ったパンをすべて現在の本店に持ってきて、ここで冷凍パッケージにしてそれぞれの自販機に運ぶようにしたい。
 
 ――パン業界は競争が激しいと思います。「どんぐり」の成長戦略は、どういったものでしょうか。

 野尻 私は、売り上げを大きくして店舗数を増やしていくことに、あまり関心がありません。それよりも、「どんぐり」というお店とお客さまが、売る側、買う側の関係ではなく、もっと近い関係、お互いが一緒にいて良かったね、と思える関係になっていきたい。そうでないと、存在する意味がないとも思っています。極端な話、パンを売ってお金を集めるという営業行為ではなく、地元の方々に応援してもらえるような取り組みを自然とできるようにしていかないといけないと思っています。私たちがどうしたら生き残っていけるのか、どうしたら必要とされるのかを追求した結果、そうした方向に行くべきだと考えるようになりました。

 キッチンカーを利用して、「どんぐり」のパンを販売する取り組みもその一環です。店舗には、多くのお客さまに来ていただているので、スタッフがお客さまと接する時間がすごく短くなっています。キッチンカーなら、店舗ほど忙しくはならないので、スタッフがお客さまとお話ができる時間を取ることができます。普段は、ほとんど会話できないスタッフとお客さまが、会話できる機会をつくりたいと考えてキッチンカーを始めました。これまでは、キッチンカーを借りていましたが、自前のキッチンカーを発注して製造中です。8月か9月には、出来上がってきます。

 ――自前の「キッチンカー」でいろいろな場所にいけますね。

 野尻 自前のキッチンカーのお披露目を予定していますが、昨年も一昨年もコラボした円山動物園と今年もコラボすることが決まったので、間に合えばキッチンカーで円山動物園に出向きたいですね。その時に、事前に円山動物園で働いている方々から、食べてみたいパンのアンケートを取り、それを当日販売できれば良いなと考えています。

 ――地域のお客との距離を短くして、より親しまれるパン店を目指すということですね。

 野尻 もう一つ、最近の取り組みに酒粕パンがあります。これは、札幌市北区にある裕多加(ゆたか)さんという酒販店から提案をいただいたもので、長野県松本市の酒蔵が「大信州」というお酒を作る時にできる酒粕を使っています。「どんぐり」で、そのパンを販売することによって、裕多加さんや清酒「大信州」を紹介させていただく取り組みです。
 また、福山醸造さんのお醤油を使ったパンを販売する準備も進めています。そのような取り組みをすることで、「どんぐり」を通して地元の会社を地元の方々に、もっとよく知ってもらえたらいいなと思います。

 地元の方々と直接繋がらせてもらえていることが、「どんぐり」の強みだと思っています。地元の方々が、ただ単にパン屋さんに行くというイメージではなく、そこにプラスアルファの何か新しい気づきだったり、思いだったりというものを感じてもらえるようなきっかけづくりができたら良いと思います。

 ――「どんぐり」のように地域に開かれたパン店というのは、あまりないのでは。

 野尻 売り上げを上げようと考えると、おそらく、当社のような動きはしないと思います。当社のお店の売り上げや運営に関して、従業員たちの頑張りがとても大きいと感じています。私が言うのもおかしいですが、とても優秀な従業員が揃っています。その従業員たちの頑張りが、価値を持つようになったら面白いと思う。今回、新たに某大手キャラクター企業とのコラボ展開も準備しています。実は最初、私はその話が来た時、お断りしようと思っていました。すると、ある従業員から、「ちょっと待ってください」と。「その企業とコラボできたら、社内のメンバーがどれほど喜ぶことか。ぜひやらせてほしい」と。その発言を受けて考え直し、社として取り組むことにしました。



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