――従業員が前向きに取り組む社風を感じます。どこからそうした社風が生まれてきたのでしょうか。

 野尻 当社を1度辞めて、戻ってきた従業員たちは特にそうですが、「本当にいろいろなことができる会社だ」と言ってくれています。商品開発だけではなくて、さまざまなことも、従業員たちの発案で決めることにしています。髪の毛の色一つとっても、社内で話し合いをして決めています。髪の毛の色に関しては、今まで会社の規則で、「この色までにしてください」と取り決めがありました。しかし、果たしてそれでいいのかと。それで今、従業員たちが自発的に決めるように投げかけています。「ここまでいったら行き過ぎだね」、「ここまでは大丈夫だね」、「お客さんは不快に感じないかな」など、自発的に一定のラインを決めるようにしています。

 研修なども、従業員の提案を採用して対応しています。まだまだ、当社は労働集約型ですが、従業員たちの自主的な取り組みは、強まってきたと思います。研修では、従業員の提案によって、石屋製菓さんとも一緒に実施しています。また、本州のパン屋さんとの人材交流も始まっています。コロナでできなかった海外研修も昨年から再開しました。昨年は30人ぐらいが、海外に出かけています。10数年前から取り組んできたのですが、アメリカやヨーロッパなど、従業員が自由に決めて良いようにしています。

 昨年はフランス、ドイツ、ベルギー、アメリカに1週間ほど行っています。海外研修に参加した従業員たちは、日本ではできないような経験も積むことができます。何より従業員の家族たちに、とても評判が良い。「あなたの会社は、そこまでしてくれるの」という感じで。

 ――海外研修は何班かに分かれて行くのですか。

 野尻 4、5人が1グループになって出かけます。飛行機のチケットとホテルと日当はこちらで用意しますが、あとは「気をつけて帰ってきてね」という感じで送り出すだけです。現地で、スリにあったり、実際、昨年もあったのですが、それも人生経験だと思います。日本では絶対起きないような経験ができるわけですから。

 ――「どんぐり」は、タイにも進出しますね。

 野尻 今、準備をしているところですが、これも本当にご縁があって進出しようということになりました。テレビの取材でタイに行かせていただいたのが、きっかけでした。私は初めてのタイ訪問でしたが、1回目はタイのバンコクで行われた日本博という博覧会の中で、ブースを持たせていただき、札幌のアピールなどを行いました。2回目は、バンコクの日本大使館の大使公邸に伺いました。そこで、北海道の食材などを集めて北海道をアピールする催しをさせていただき、現地の旅行会社などから、50~60名に集まってもらいました。

 その時に、たまたま知ったのですが、現地で一番人気のあるパン店は、日本人の方がやられているパン店でした。そのパン店を訪問した時、同行したメンバーたちの間で、「野尻さん、バンコクでパン店をやってみたらどうか」という話になりました。その時に、「えっ、ちょっと待てよ。うちの会社に研修に来てる人が、タイに帰らなきゃいけないって言ってたはず」と思い出し、すぐ連絡を取りました。

 当社に研修に来ていた方は、バンコクで十数年、仕事をしていたのですが、55歳でその会社を定年になったのを機に、ご自分でパンかケーキを作って提供するカフェをバンコクでやることを決め、札幌でパン作りの勉強のために専門学校に通っていました。その研修先としておよそ1週間、当社に来ていたのです。その方に、「僕たちはバンコクでパン店をやってみようと思っているのですが、一緒にやりませんか」とお誘いしたところ、「すごく興味があります」と言っていただきました。現在、その方を含めて一緒に準備をしています。

 奥芝商店さんなど、いろいろな方のご縁もありました。日本で人気のある居酒屋さんの創業者の弟さんが、バンコクで同じ屋号の居酒屋を経営していて、その方にもサポートしていただける話も出てきました。また、当社のホームページを作ってもらっているギアエイトさん(札幌市中央区)が、バンコクに支店を開設していて、何かできることがあればと言っていただけたり、本当に多くの方々とのご縁をいただきながら出店準備を進めています。

 ――いつ頃出店しますか。

 野尻 来年には出店したいと考えています。

 ――ドバイでも出店の話がありますね。

 野尻 ドバイのお話も、すべてご縁で繋がらせていただいていますが、これはもう運命的な「今やりなさい」というサインなのかなと感じています。ドバイは、たまたま知り合いの日本人の方がいて、その方のご夫人が白石区出身なのです。それがきっかけで、仲良くさせていただいて、その方がきっかけで、ドバイでどんぐりが何かできないかといろいろと模索しています。



55人の方がこの記事に「いいんでない!」と言っています。