新型コロナウイルスの影響は全国の観光地を震撼させている。北海道ニセコも例外ではなく、ホテルやレストランなどは開店休業状態が続く。世界のスキーリゾートに向けて外国資本の投資が続くニセコはこの危機をどう乗り越えるのかーー現地の声を聞いた。1回目は、ニセコヒラフ地区(虻田郡倶知安町字山田)の「ホテル木ニセコ」1階で日本食レストランを2014年12月から展開している「杏ダイニング」のオーナーシェフ前田伸一さん(41、デリシャスフロム北海道代表取締役)。(写真は、前田伸一さん)

 前田さんは深川市出身で旭川工業高等専門学校卒。東京でプログラム開発に携わったが日本食を極めようと寿司職人の道に。24歳の時、オーストラリアで日本食レストランを起業、12年間の実績を元に北海道に戻りニセコで「杏ダイニング」をオープンさせた。前田さんはニセコの未来をどう展望しているのか。

 ーーニセコヒラフ地区で観光客が減り始めたのはいつ頃からですか。

 前田 今年は1月25日頃から春節(チャイニーズニューイヤー)をニセコで迎える中国系のお客が増えました。しかし、1月27日に中国は海外への団体旅行を禁止にしたため一気に萎みました。前乗りしていた中国系のお客は本国に帰らずに残っている人もいましたが、春節でニセコに来る予定だったお客はほぼキャンセルでした。
 
 当レストランは団体をターゲットにしていないので、あまりキャンセルはありませんでした。もともと来る予定だった人の9割は来ていたのではないかと思う。こちらに来て滞在を延ばした人もいて、お客は少し増えた印象でした。2月5日を超えると減り始めましたが同月20日くらいまではあまり影響もなく、例年通りという印象でした。ところが、28日の鈴木直道知事による緊急事態宣言が出てからはすべてキャンセルになりました。鈴木知事は正しい選択をしたと思いますが、海外、国内問わず予約はすべて消えました。2月20日からGWまでの減収は当店だけで希望的に見ても数千万円になります。今、見直しをしていますがさらに減収幅は拡大するでしょう。

 ーーニセコに広がっているそうした状況をどう捉えていますか。

 前田 新型コロナによる影響が始まる以前から、今のニセコモデルのレストランは長続きしないだろうと思っていました。コロナがなくても、みんなが行っているビジネスモデルは3年と持たないのではと考えていました。現在の営業モデルは人手が必要ですが、人手不足で人件費がどんどん上がっています。同じやり方ではどこもうまくいかなくなる。もちろん自動化できるところは自動化していますが、自動化して同じ価値を生み出せるかというと難しい。ニセコのレストランは単価3000円以下か、1万円以上に二極化して中間的な価格で営業しているレストランの生き残りは困難ではないかと思います。

 お客がレストランを選ぶのは、『美味しい』、『安い』、『有名』など様々な要素があります。選ばれる要素を増やしていかなければ生き残れない。そのことを改めて見直す良いきっかけでもあると思います。
 例えば、『安さ』だけなら競争でみんな疲弊してしまい勝者が出ません。『美味しさ』はどうかというと、今は美味しくないお店は少なくなっています。『美味しさ』だけで勝てるかというと難しくなっている。自宅や職場から近いという『便利さ』はどうか。これも都会なら選ばれる要素の一つになりますが地方では難しい。また、現地でしか食べられないということも今はほぼなくなってきました。

 どんな要素があれば来てもらえるのか。それを本気で考えるきっかけにしなければならない。答えの一つは、頑固おやじのラーメン屋と同じような要素をつくること。そういう店に行くのは、スープや麺が美味しいということもありますが、そこの頑固おやじや、店の雰囲気が好きだからというのもあると思う。簡単に言ってしまうと店の空間づくりになってしまいますが、あの人がいるから行くとか、ビジネスに繋がるから行くというように、多くの人にとって行く理由のあるお店を作らなければいけない。私は近々、そういう店を作ろうと思っています。今年は難しいですが……。

 ーーニセコで休業しているレストランはどのくらいあるのでしょう。
 
 前田 ほぼ半分はクローズしていますが、今後も増えて4月を過ぎて営業しているのは数店ではないでしょうか。ニセコヒラフ地区では、今年の冬までに半分程度の店のオペレーターが入れ替わっている可能性があります。新型コロナウイルスの問題がなくても、店のオペレーターが入れ替わるのは避けられないですが、そのスピードが速くなっていくのではないでしょうか。

 ーー前田さんがレストランを開業して6年になりますが、お客が来なくなる事態は想定していましたか。
 
 前田 こういう事態になることは全然思っていなかった。しかし、ニセコが自然災害や大規模な事故によって万一の時があるかもしれないという気持ちは漠然と持っていました。ただコロナで全世界の需要が一時的にでも消失してしまうことは考えてもみなかった。この危機をチャンスと考えて切り替えないといけない。悩む時間はいっぱいありますから、今は悩まないといけない。

 今回を機にニセコ周辺の地域力が強くなれば良いのではないか。私はよそ者ですが、後志地域は各自治体同士がなかなか連携できていないと思います。日本海側も内陸のマチも元々繁栄していた地域が多かった上、この10年間でいうと倶知安町の一人勝ちが目立っていて他の自治体と手を組むという考えが少なかったと思う。新型コロナの問題は地域で手を組まないと乗り越えられない危機だと痛感しています。

 ーーありがとうございました。


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