食品スーパー進化系「地域インフラ軸」構築進める ホクノー野地秀一社長が語るポスト60年

流通

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 ――今年7月に創業60周年を迎え、今後の方向性として「食品スーパー軸」から「地域インフラ軸」へと大きな方向性を示されました。
 
 野地 食品スーパーとして第一に生産性の向上がテーマで、膨らむ市場への参入をしていかなければならないでしょう。そう考えたとき、高齢者が求めるようなサービスを充実させていくしかないのではないか。地域インフラとして高齢者が望むサービスは介護ではないかと。当社創業の地であるもみじ台地区は単身高齢世代が一番多い。高齢者が単身で暮らしているだけでもリスクですから、まずそのリスクを軽減してもらおうと。食品スーパーにとって単身高齢者に長生きをしてもらって、日々買い物にきてくれることが地域でウィン・ウィンの関係になると思います。そういう関係がしっかりと構築できれば競合店が進出してきても大丈夫でしょう。地域の高齢者の健康寿命を伸ばしたいと思い、ケアマネジャーを配置して介護の相談を受けるサービスを来年初めから実施したいと考えています。
 また、1人暮らしの高齢者が一番困るのは食事。もみじ台ショッピングセンター内にあって自社で営業している「もみじ食堂」を改装して朝、昼、晩の三食について健康を軸にした食の提供を考えています。
 
 ――タニタ食堂のようなコンセプトですね。レシピの開発や健康食ということで他者との連携も考えていますか。
 
 野地 大阪の専門企業からレシピを買って、もみじ台食堂で提供する方向です。その専門企業は、国立病院機構と連携しているので、カロリー表記などをした食の提供も可能。「からだデリ」という商標があってレシピにそって作ったものにそのシールを貼ることもできるので店舗で弁当としても販売もできます。食堂、スーパーでの弁当販売、宅配弁当の3チャネルを手掛けていきたいですね。
 配食サービスは、コープさっぽろが先行してやっていますが、当社が参入してもみじ台地区で軌道に乗れば、厚別区全域に広げるほか、健康食堂の拠点も広げていければ良いと考えています。
 
 ――ホクノーの店舗の強みをあらためて聞かせてください。
 
 野地 特に商品で突出して良いものはあまりないですが、他社が敬遠しがちなことまでやっている点ではないでしょうか。具体的には地域の自治会などの会合などで、オードブルを作って配達するとか、ビールを冷やして配達したり氷を入れておくなど手間ひまがかかることも厭わずやっています。他店では決してしないと思いますが、そうしたサービスが近年如実に増えています。
 
 ――まさに「御用聞き」として地域密着こそが強みということですね。
 
 野地 自治会の会合は、1回につき20~30万円の売上げがあって大きいですが、人件費や間接コストを引くと果たしてどうなのかという切実な問題もあります。例えば「お弁当を朝の10時に300食届けてください」と言われると、朝から早出でしますから早出費用が必要。採算が取れているのかというと心もとない。そのあたりをテーマにして収益が上がるような効率化などを考えながらやっていかなければならない。
 
 ――ところで中央店で実施している「まちかどよろず相談会」の開催が厚労省の表彰を受けましたね。
 
 野地 昨年、厚生労働省主催の「第3回健康寿命を伸ばそうアワード」の厚労省老健局長企業部門優秀賞を受賞しました。よろず相談会は2年ほど前から開催しており、以前は2ヵ月に1回だったのですが最近は毎月やっています。スーパーの一部スペースをNPO法人や民生委員、行政書士などに貸して「食事に困っている」とか「話し相手がいない」などの身近な相談を受け付けています。当社が検討している介護の相談窓口とも一部で協力できるかもしれません。
 
 ――もみじ台団地では65歳以上の方の比率が4割になっているそうですが、高齢者対応という点では行政とのタイアップも必要になってきます。
 
 野地 まもなく市営団地の建て替えも必要になってくるでしょう。建て替えにしても今までとは違う考え方が不可欠です。東京都板橋区の例ですと、団地をそのまま民間に貸して、丸ごと1棟をサービス付高齢者向け住宅のようにしています。ただサ高住は入りたくても入れない人がいるので、多少団地よりは家賃は高くても、そういうサービスがついているとうことであれば一定の需要はあると思います。さらに若者や子育て世帯の応援という意味からも低家賃での住まいの提供も必要ですね。かつて2万6000人だった人口が1万人も減っている現状を行政はしっかり見つめるべきです。
 当社が取り組む健康食堂にしても地域インフラとして暮らしをサポートしていくには、行政と連携しながら取り組んでいきたいと考えています。
 
 ――食品スーパーは地域の暮らしを支える点で、今後高齢者との関わりがより密接になっていくでしょうね。その際、行政との連携が不可欠になるでしょう。本日はありがとうございました。
               ◇     ◇
 ホクノーは1955年7月、現社長、秀一氏の祖父、雅雄氏が馬鈴しょの集荷・販売業の北海道農事として設立された。野地家は新札幌のもみじ台地区に広大な農地を所有して馬鈴しょを戦前・戦後にかけて生産し、馬鈴しょ優良品種の表彰を受けたり、戦後すぐに東京へ販売網を広げるなどした事業家だった。
 70年代に入り札幌市の副都心開発として新札幌地区が選ばれ、当時の板垣武四市長とタッグを組んでもみじ台団地の造成に取り組み、71年にはもみじ台SCを地権者らと設立、食品スーパー業に参入した。
 秀一氏は、68年9月生まれ、札幌南高から東京理科大を卒業して北海道拓殖銀行入行。拓銀破綻に遭遇して98年3月ホクノーに入社。99年まで1年間は、食品スーパーの修行のためハワイやフロリダの米国食品スーパーで働いた。2009年に社長に就任した。

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