札幌スイーツの代表格として知られる「きのとや」。長沼昭夫社長(65)は、札幌スイーツの先導者として業界発展に汗をかく毎日。農産加工業のスイーツこそ北海道に立脚した産業だと強調、人材育成にも目を配る。長沼社長が語った誕生の裏面史の3回目。(6月4日に行われたキャリアバンクと読売新聞北海道支社の共同企画「朝活」の講演を構成。写真は、講演する長沼昭夫社長と社是)
 
 北海道は優良な菓子メーカーが多い。国際展開をしているロイズコンフェクト、石屋製菓、帯広の六花亭や柳月もある。長沼氏には、こうした菓子製造のポテンシャルを活かすショーウィンドウの役割を札幌の駅前通に持たせたい思いが強い。名付けて『スイーツ通り』の実現だ。
 
 4年前にオープンした北洋大通センター1階には“ビッセスイーツ”ができ、そこには、「きのとや」をはじめ「月寒あんぱん」や「小樽あまとう」など菓子スイーツ店が集積、長沼氏の夢に一歩近づいた。日生札幌ビルには、以前から「ゴディバ」が店を構え6月4日には大通西4ビルに石屋製菓の直営店もオープン。さらに現在、建設中の札幌三井JPビルにもスイーツ専門店が入ることも検討されている。明治安田生命ビルや越山ビル、第一生命ビルなど建て替え計画のある中心部のビルにスイーツ専門店がどんどん進出すれば、「スイーツの街・サッポロ」としてアジア観光客からも人気を呼ぶことだろう。
 
 長沼氏は、北海道ほどスイーツに最適な風土はないと強調する。「スイーツは、まさに農産加工業です。北海道のビート糖や小麦、乳製品は不可欠な材料ですし、付加価値も高い。一方で、労働集約的な産業の側面もあって多くの人を雇う。きのとやはグループ全体で家族も含めれば1000人の所帯。スイーツは、雇用吸収力を持っています。農商工連携もやりやすい。スイーツの活性化なくして北海道の産業転換は図れないでしょう」
 
 スイーツ王国さっぽろ推進協議会が、2006年から始めたさっぽろスイーツコンペティションは、パティシエにスポットライトを当てる目的もあった。「市内には将来のパティシエを養成する大規模な専門学校が4校あります。在籍しているのは900人近くで、これは全国一の規模です。こうした若者たちの夢を実現させるのも私たちの使命です」と長沼氏。
 
 しかし、スイーツ業界をまとめていくのは難しい。全国的に見ても菓子業界は家族的な中小規模の企業が多い職人集団。多様な考えを持つ職人がいるからこそ、活気があるのも事実だが、地域の発展を考えていくうえでは業界がまとまることも必要。
 
「まとまっていくためには目標を持つことが大切と考え、全国的なイベントである全国菓子博覧会を札幌で開催しようと誘致活動をしています。4年に1度開かれる大きなイベントですが、実は46年前に札幌で開催したことがあります。この博覧会は和菓子中心ですが、最近は洋菓子も増えており是非とも札幌開催を実現させたい」
 
 今年は広島で開催された。17年には三重県で開催されるが、その次の21年には札幌開催が実現する見通しだ。
 
 前回、紹介したが、きのとやには5つの日本一という目標がある。その目標は創業4年目に掲げたもので、『社是』はなかったという。
「3年前に社是を始めて作りました。『いい会社をつくりましょう』というものですが、これは寒天で全国一の長野県の伊那食品工業の社是をいただいたものです。あるきっかけで知り合った会社なのですが、これを是非使いたいと塚越寛会長、井上修社長に頼んで了解を貰って社是にしました」  
きのとやの経営理念は『全社員とその家族の幸せを実現する』、『お客様に満足と感動を提供する』、『きのとやの発展とともに地域、社会に貢献する』の三つ。これら三つを同時に達成する三位一体経営で、『いい会社を作りましょう』という訳だ。シンプルで心に響く社是と言えそうだ。
                                      (終わり)



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