星野リゾート・弟子屈町・環境省が「川湯温泉街まちづくり再生」、核施設の高級温泉旅館「界」2026年開業

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(画像は、今夏に策定される「阿寒摩周国立公園川湯温泉街まちづくりマスタープラン」に盛り込まれる予定の全体パース)

 こうした再生に向けた動きが前進する中、先行して解体撤去した廃ホテルの跡地約2407坪(7945㎡)と町有地を合わせた敷地約4545坪(約1万5000㎡)について、環境省は2022年9月に宿舎事業を行う事業者をプロポーザル提案で公募。今年2月、選定委員会によって星野リゾートが選定され、同社と弟子屈町、環境省釧路自然環境事務所の3者は、「阿寒摩周国立公園川湯温泉廃屋撤去跡地における宿舎事業実施協定書」を締結した。これに伴って、「検討協議会」の構成員に星野リゾートのほか、同社の開発に関わる街制作室(札幌市中央区)とオンサイト計画設計事務所(東京都港区)が新たに加わった。

 町は、今年夏頃には、マスタープランを策定することにしているが、そのコンセプトは、「湯の川がつむぐカルデラの森の温泉街」というもの。川湯温泉は、東北海道の中央に位置し、強酸性の泉質を持つ温泉の川が、街の中を流れているのが大きな特徴。この川は、2㎞先の硫黄山から地下を流れ、温泉街で湧出して川となり、屈斜路湖へと注いでいる。

「温泉街の営みの象徴であるこの川を最重要に捉え、深い森や火山活動でできたカルデラなど、圧倒的な自然の恵みを大切に生かしたプランにする。おおむね20年後を見据えて、温泉街の象徴となる区域など優先箇所を決め、順次整備していくことを想定している」(町観光商工課秋山一夫課長)。再生のための規制緩和や財源、実施組織の在り方などは、マスタープラン策定後に具体化していく予定だ。

「検討協議会」の新たな構成員となった星野リゾートの星野佳路代表は、廃屋跡地に同社の温泉旅館ブランド「界」の進出を決めている。建物の規模や客室数、宿泊料金などは未定だが、現在、全国で22施設を展開している「界」の標準スペックである客室数50の規模を想定、2026年に開業を予定している。土地は環境省と町が50年間貸し付け、星野リゾートは賃料1億1600万円を支払う。

 また、マスタープランに織り込む項目として、温泉の川に入浴ができる「川湯ラグーン」や「川湯テラス」、屋台が立ち並ぶ「川湯横丁」などについて、街制作室、オンサイト計画設計事務所と共同で提案している。

 星野代表は、「1960年代から1970年代の高度経済成長期に、当時の環境庁の直轄地では、民間の力を借りてホテルや旅館を建てて事業に取り組んできたことがある。ところが川湯温泉を含めて、廃屋の問題などが発生し、再生をしなければいけない事態になっている。その失敗を繰り返さないことが大事だ。新しい建物や施設を造った時は、きれいで素晴らしく見え、興味を持って入ってくる事業者もやる気に溢れている。20年後、30年後にどうなっているか。クローズして放置され、行政を含めて何もできないということではなく、常にアップデートして良い事業者が入ってくるような仕組みを、私たちは考えなければいけない。過去の反省を生かして、新しい仕組みで取り組むことが大事なのではないか」と強調する。

 星野リゾートが、再生に関わってきた事例には、「リゾナーレ八ヶ岳」(山梨県北杜市)、「アルツ磐梯」(福島県耶麻郡磐梯町)、「トマム」(勇払郡占冠村)などがある。温泉街全体の再生としては2016年から関わってきた「長門湯本温泉」(山口県長門市)のケースがある。今回の川湯温泉の再生について、「かなり大変で、難易度は高い。ただ、元々、地域が持っているポテンシャルは高いうえ、町、環境省、地域住民などみんなが抱えている課題は共通で、何とかしたいというベクトルも一致している。こういう場所はすごく珍しい。30年後に、世界でも有数の観光地になる場所は、こういうところだろう」と星野代表は期待感を示す。

 川湯温泉での取り組みは、国立公園内で官民が連携協力して、地域の魅力向上に取り組む先進的なモデルになると期待されている。徳永町長は、「国立公園満喫プロジェクトをきっかけに、夢のようなことが起きている。星野リゾートが加わってくれることで、さらに大きな期待を持っている。星野リゾートが来るのは、ゴールではなく、新たなスタート。町、地域住民、環境省、星野リゾートが一体となって、温泉街を再生させたい」と話す。

 観光地が持続的に成長していくには、オールシーズンにわたって入り込みが平準化していることが不可欠。今や世界のリゾートとして脚光を浴びるニセコは、冬のシーズンこそ活気に溢れるがそれ以外のシーズンには、課題を抱える。「20年後、30年後、川湯温泉は、年間を通して稼げる観光地になる」と星野代表は、ニセコ超えの可能性を示す。

 川湯温泉街は車で5分も走れば通り抜けてしまうほどの小ささも魅力。「巨大なカルデラの真ん中に小さな温泉街があって、地面の下を熱を持った水が動いている。そんなことが身体感覚とし共有できる場所になったらいいなと思う」。土地の持つ風土や歴史、地域性をデザインに落とし込むことが得意なオンサイト計画設計事務所の長谷川浩己代表取締役は、そう語った。再生を超えた新生への挑戦、川湯温泉街が覚悟を決めて動き始めた。
(写真は、温泉が注がれた川に入浴ができる「川湯ラグーン」を説明するオンサイト計画設計事務所の長谷川浩己代表取締役)

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