(写真は、札幌市中央区円山にある「森彦本店」)
今後の課題だと考えているのは、お客と従業員の意識のギャップをどう埋めるかということ。というのも、お客はモリヒコが大好きなのでモリヒコのことをとてもよく知っています。従業員が労働の対価を得るためだけにこの店で働いているとしたらお客は不幸です。スタッフと共有したくて質問をしたのに期待した答えが返ってこないからです。
少なからずそういう社員もいるので、それをどうするかという課題があります。しかし時間をかけて変えていくしかない。ブランド愛、愛社精神なんていうのは昭和の言葉であって、言われれば言われるほど愛社精神は持てないもの。逆に会社は従業員に愛されるためにどうすればよいかを真剣に考えなければならなくなっています。お客に心骨砕く熱意は従業員にも向けなければいけない。
マネージメントとは経営管理のことですが、僕は違うのではないかと思っています。人は基本的に管理されたくない。僕もそう。マネージメントは管理ではなく関心ではないかと。従業員にもいつも関心を向けておくこと。これが僕にとって大事なことです。店舗に出向いたら「元気か」、「困ったことはないか」と聞いて回っています。関心を持って見ていることを伝えなければなりません。
ーー今年から来年に向けての新規店舗は。
市川 新築物件とリノベーション物件があります。ライフスタイル提案型で大人カルチャーがテーマの店舗を計画しています。ニセコにも出しますし道内の大学への出店も計画しています。中国進出の話もあります。
ーー経営者として目指す人はいますか。
市川 パタゴニア創設者のイヴォン・シュイナード氏です。あの人の生き方もロックンロールそのもの。彼は元々鷹匠だった。鷹の幼鳥を取るために崖の上に登らないといけないのでピトンを打った。ロッククライミングというスポーツの黎明期のころでそれが飛ぶように売れた。それで鍛冶屋を始めた。鍛冶屋があまりにもきついので手っ取り早く儲けるために何の愛着もなく作ったのがパタゴニア。
そこである時、コットンで作ったアウターをお店に平積みしたら、従業員たちから体調不良の訴えがあって、調べると残留農薬がコットンから見つかった。それでオーガニックコットンに切り替えようとした時に、当時の株主たちの大反対があった。「そんなことしたら会社は潰れる」と。彼は「そんなことで潰れる会社ならいらない」と全部オーガニックコットンにしたら飛ぶように売れた。経営者としていかに儲かるかということと全く違うことをずっとやり続けていたら、それが最高の経営になったというのがパタゴニアです。
ーー社長の個性が出るのが会社と言えますが、採算をとっていくのが難しそうですね。
市川 僕自身は“経営”にそんなに自信を持っていないので僕を入れて4人が経営を担う体制にしています。外部から招聘した人と内部昇格した人で脇を固めています。モリヒコはもともと企画会社なのです。珈琲という商材を使って企画を立て、それを売る。かつて、この「Plantation」で手作り作家たちが集まってワークショップや展示販売会を行う『マルシェ・ドゥ・グルニエ』を開催したことがありました。作家たちが直接お客に売るのですが、決して商売の上手い人たちばかりではありません。しどろもどろしながら商売をするので、それが好評でした。そういう企画をいろいろやってきました。今でもいつも何かを企画しています。おそらく日本で一番企画している会社ではないでしょうか。