ウマ娘人気の今と馬産地・日高の地域課題

社会・文化

(写真は、現在のAERU功労馬のオウケンブルースリ=手前=とスズカフェニックス)
(写真は、マイネルキッツ)

「競走馬のふるさと日高案内所」(新ひだか町静内神森)の河村伸一所長に、ルール、マナー問題の現状を聞いたところ、今は無断のSNSやYouTube配信に牧場側が悩まされているという。「あまりにも拡散され過ぎることや、牧場側の厚意で牧場見学を許可しているのに営利活動をしているなど、SNSにあげること自体を禁止している牧場も出てきています」(河村氏)。さまざまなルール、マナー違反を受け、これまで牧場見学を受け入れていた日高管内の著名な牧場では、2024年8月繁忙期の牧場見学中止を決めた。

 しかし、この問題の難しいところは、必ずしも悪意からルール、マナー違反をしているわけではないということ。多くは、ルール自体を知らない無知や無自覚に起因している。名馬を見たい、名馬に会いたい、競走馬の牧場に行きたい、といった目的のある観光客は、馬産地の決まりごとを事前に把握していることが多い。だが、馬以外の目的で訪れる観光客の多くは、そうしたルールがあること自体を知らない。例えば、二十間道路(新ひだか町)や優駿さくらロード(浦河町)などを訪ねる桜シーズンの観光客。沿道には、当たり前のように沢山の馬たちの姿がある。車を停めて写真を撮り、近づいてきたら食べ物を与える。こうした何気ない行動は、多くの馬たちのストレスになってしまう。国立公園の指定によって、さらにこうした観光客の入り込みが予想され、馬産地は悩む。

(写真は、AERU敷地内に掲げられている見学ルールの看板)

 前出の太田氏は、「観光で来る人たちに対して、日高管内には守るべき、やってはいけないルールがあることをどう伝えていくかが、今の悩みどころ。その方法を管内全体で考えていかなければならないと思います」と言う。こうした対策の新たな動きとして、日高振興局と日高町の「Yogiboヴェルサイユリゾートファーム」、それにコンビニのセコマは連携して2024年7月下旬から、日高管内の「セイコーマート」に、牧場見学9箇条の内容が記された8ページの「牧場見学のルール&マナー小冊子」の配布を開始した。

「Yogiboヴェルサイユリゾートファーム」は、クッションのYogiboで横になる重賞功労馬・アドマイヤジャパンや、2002年のダービー馬でウマ娘にもなった、タニノギムレットが見学できることでも人気の牧場。そういった牧場が、ルール、マナー啓発の取り組みに参画しているのは、深刻な観光被害の裏返しとも言える。

 日高振興局は、この他にもSNSアカウント・ナナイロひだかなどを通じて、以前から牧場見学のルール、マナー啓発を続けてきた。もっとも、そうした取り組みは、観光客側がそれを閲覧するなり、冊子を読むなりしない限り、効果が出てこない。もっと直接的な発信はないのだろうか。北海道の空の玄関口・新千歳空港。商業広告や観光施設の広告に加えて、馬産地日高のルール・マナーを訴える広告があっても良いのではないか。新千歳空港から日高管内までは、車で1時間もあれば行ける距離。ウマ娘ファンに加えて、国立公園指定で増える観光客に、持続可能な馬産地・日高の観光地づくりに協力を求めるのは、待ったなしと言える。

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