製紙をはじめとする工業都市としての顔や、フェリーターミナルがあることから、北海道と本州を結ぶ海の玄関口といったイメージを持つ、胆振管内・苫小牧市。そんな同市にはもう一つの顔がある。アニメ、マンガ、ゲーム作品との深い縁(ゆかり)だ。民間企業はもとより、行政などもこうしたコンテンツを活用した地域おこしに本腰を入れている。“アニメ、マンガの聖地“苫小牧市を紹介する。(写真は、苫小牧市観光案内所のホッコータルマエ等身大パネル)
(写真は、同案内所にある作家や声優の色紙)

 まずは、苫小牧市ゆかりのコンテンツ群についてざっと触れておこう。1990年代前後に人気を博した近未来メカもので、警察の組織・階級社会や日常を描いたアニメ、マンガ(週刊少年サンデー掲載)作品『機動警察パトレイバー』。同作品の主役機であるパトロールレイバーを操縦する、主人公の女性警官、泉野明の出身地が苫小牧市。作中では実家の泉酒店も登場する。余談だが、同作品の警察描写は、1997年放送開始の人気刑事ドラマ『踊る大捜査線』に大きな影響を与えた。

(写真は、マンガ『機動警察パトレイバー』作者のゆうきまさみ氏複製原画)

 2006年に週刊少年マガジンで連載が始まり、テレビアニメ化もされた高校野球作品『ダイヤのA(エース)』(2015年には第2部『ダイヤのA actII』の連載が始まり2022年完結)。主人公の沢村栄純も在籍するチーム・青道(せいどう)高校で、剛腕投手として知られる降谷暁(ふるや さとる)の出身地が苫小牧市。また青道高校と甲子園で対戦した経験もある強豪校・巨摩大藤巻(こまだいふじまき)高校のエース、本郷正宗(ほんごう まさむね)も出身地が苫小牧市だ。

 2012年から2016年までヤングエースで連載し、アニメ化、実写映画、実写ドラマ化もされた、サスペンスものの『僕だけがいない街』。主人公・藤沼悟らが子供の頃に過ごしたまちが苫小牧市で、作中に登場する市立美琴小学校は、苫小牧市立美園小学校がモデル。そして作者・三部けい氏も苫小牧市出身。

 2016年にプロジェクト始動、2018年に第1期テレビアニメ放送、2021年アプリゲームがリリースされたクロスメディアコンテンツ『ウマ娘 プリティダービー』。このアプリゲームに2023年1月実装されたのが、ダート(砂や土の走路)のG1レース10勝という偉業を果たし、「とまこまい観光大使」にも任命された地元企業、北幸商事が、馬主の名馬・ホッコータルマエのウマ娘。また同市には、数多くの名馬を輩出しているノーザンファームの関連企業が運営する、馬とのふれあいを楽しめるテーマパーク・ノーザンホースパーク(苫小牧市美沢)がある。

 これらコンテンツのジャンルも、流行った年代もさまざまだが、それ故に幅広い年代のファンにとって“聖地”に成り得るのが苫小牧市と言えよう。では、実際にどういった取り組みが行なわれているのか。

 JR苫小牧駅のすぐそば、ふれんどビル1階にある、一般社団法人苫小牧観光協会が運営する苫小牧市観光案内所。そこには多くの観光パンフレットとともに、泉酒店の前掛けをした『機動警察パトレイバー』主人公・泉野明のポスターや、ウマ娘・ホッコータルマエの等身大パネル、同市ゆかりの作品に関わった、マンガ・アニメの作家や声優のサイン色紙など、いくつもの展示物で溢れている。

 この中で大きな存在感を放っているのが、ウマ娘・ホッコータルマエの等身大パネル。これは前述の馬主である北幸商事が、ウマ娘コンテンツを運営するCygames(サイゲームス)と連携して制作したものだ。この観光案内所と樽前山神社(苫小牧市高丘)に寄贈している。ウマ娘等身大パネルの設置自体は、同市に限ったことではなく、日高管内7自治体(日高、平取、新冠、新ひだか、浦河、様似、えりも)でも行なっているが、日高のケースは、北海道庁の出先機関である日高振興局が、Cygamesの協力を得て実施したもの。苫小牧のホッコータルマエのケースは、北幸商事の自発的な取り組みであり、地元を盛り上げようという粋な計らいと郷土愛が感じられる。

 2024年5月3日からは、ホッコータルマエと同市のマスコット、とまチョップが一緒にデザインされたアクリルスタンド(税込880円)2種類とアクリルキーホルダー(税込660円)2種類の販売が、同案内所で始まる。

 2013年から開催されている、とまこまいコスプレフェスタ(同実行委主催、略称とまコス)。2023年11月に開催された同イベントでは、2014年から2015年にかけて公開されたパトレイバーの実写作品『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の実物大主役機、98式AVイングラムが展示されたほか、ゲストにアニメのパトレイバーで、主人公をサポートする指揮担当、篠原遊馬を演じた、ベテラン声優の古川登志夫さんもステージに登壇した。

(写真は、実写版パトレイバーが表紙になった「広報とまこまい」2023年12月号)

 コスプレイベントは、若い人が中心と思われがちだが、パトレイバーが刺さる世代は概ね50代、40代。とまコスは、年代を問わず楽しめる催しとなっている。なお、同イベントで展示されていた実物大パトレイバーは、広報とまこまい2023年12月号の表紙でも紹介された。こうしたアニメ、マンガのコンテンツが溢れる苫小牧を市役所も積極活用、2020年度から知名度向上や交流人口の増加を目指すアニメツーリズム推進事業を展開している。

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