Cygames(サイゲームス、本社・東京都渋谷区)のクロスメディアコンテンツ「ウマ娘 プリティダービー」(以下、ウマ娘)がヒットしている。新人トレーナーになったプレイヤーが、実在する競走馬の名前を冠した「ウマ娘」と呼ばれるキャラクター達を育成、成長しながらレースの勝利を目指していくアプリゲーム。2021年2月にリリースされて1年、人気が広範囲に拡大している。そんな中、馬産地北海道の日高地方には「ウマ娘」効果による観光客が増えているという。現地事情を探る2回目を掲載する。(写真は、うらかわ優駿ビレッジAERUに展示されているダービー優勝レイ)

 前回紹介した「ひだかサラブレッドタクシー」のモニターツアーで行なわれた様々な牧場見学は、牧場側の特別な許可を得て実現した。実際、日高管内の大半の牧場は、関係者以外立入禁止となっている。「サラブレッドタクシーでの牧場見学は、いわば牧場側のご厚意の賜物で、本来ならあり得ないことです」とドライバー兼ガイド役の木田佳孝さんは話す。その上で、モニターツアーの利用者にはルール・マナーの厳守を強く呼び掛けたという。

「ウマ娘」ブームで、馬に詳しくないファンが大挙して日高地方に来ることに、牧場関係者は少なからず警戒心を抱いているようだ。加えて、それぞれの時代で偉大な足跡を残した名馬を、娘に擬人化したことに不快感や抵抗感を持っている人たちがいるのも確か。それでも、「ウマ娘」は着実にファンを拡大しており、聖地・日高地方を目指してウマ“推し”たちが訪れることは、止められそうにない。
 日高管内にある「ウマ娘」に登場する馬ゆかりの牧場は、優に20ヵ所を超える。そのうち、どれだけの牧場が見学や既に亡くなった名馬のお墓参りなどを認めるかは予想できない。木田さんは、「馬を目的に来られる方々には、『牧場見学の9箇条』をぜひ厳守してもらいたい」と訴える。「牧場見学の9箇条」とは、牧場見学における最低限のルールやマナーを記したもので、「競走馬のふるさと案内所」WEBサイトでも確認することができる。だが正直なところ、「ウマ娘」がきっかけで競馬や競走馬に関心を持った人々にとって、「牧場見学の9箇条」の存在すら知らないという人が大半。一般に向けたアナウンス不足は否めない。

 仮に今後、道などの広域行政も関わり、官民総出で「ウマ娘」人気を地域活性化の起爆剤にしようとするなら、地元と「ウマ娘」“推し”の人たちとの良好な関係づくりは必須。その取り組みの一つとして、一般的によく目にする北海道の地域資源や観光の情報を紹介する各種媒体に、「牧場見学の9箇条」を強くアナウンスしてもらう必要がある。

 ともあれ、日高管内には「ウマ娘」特需が訪れようとしているのは間違いないと思われる。力を入れるべきことは、「ウマ娘」“推し”の観光客に対して「牧場見学の9箇条」を徹底してもらうようにして、共存共栄の道を目指すことだ。私見だが、牧場側はファンサービスとして新たに牧場見学などを始めることは必要ないと考える。目指すべきは、「ウマ娘」のふるさとに来たことを、実感できる雰囲気づくりではないだろうか。

 新冠郡新冠町の道の駅「サラブレッドロード新冠」には、まちのシンボルでもある名馬ハイセイコーの像や、まちゆかりの名馬の顔写真や血統、優勝成績などのプロフィールを記したレコードの形をした石板「優駿の碑」が62基設置されている。トウカイテイオーやビワハヤヒデ、ナリタブライアン、マヤノトップガンなど「ウマ娘」化にもなっている名馬たちの「優駿の碑」を目にするだけでも、ファンは長く地元に親しまれていることをうれしく思い、いわゆる“聖地”にいることを実感するのではないか。おそらくここに、キャラクターのポップが飾られただけでも、大きな話題になると思う。


(写真は、道の駅「サラブレッドロード新冠」にある「優駿の碑」)

 また、食の魅力もリピーターづくりの好材料。同管内では、有名な昆布をはじめ、春が旬のウニ、ししゃも、ツブといった海産物もある。地域を絞れば新冠町のピーマン、新ひだか町ではミニトマトにブランド牛「みついし牛」、低たんぱくブランド米の「トキノミノル」。浦河町には「カツ飯」というソウルフードもあり、日高地方は食の魅力あふれる地域でもある。これまで地域産業として観光にあまり重きを置いていなかったこともあって、これら地域の食はあまり広く知られていなかった。
 かの地を訪れれば、当然その土地の食を味わいたいもの。それが美味しければ、また行きたいと思い、併せてその感動を誰かに伝えたくなる。SNSが普及した今、同地方を訪れる誰もが日高グルメの魅力を広める宣伝役になり得る。

「ウマ娘」では、蜂蜜ドリンクが好物として紹介されているが、新ひだか町には道内でも著名な養蜂場がある。「ウマ娘」のふるさとの養蜂場が手掛ける蜂蜜ドリンクが売り出されれば、SNSで大きな話題になるだろう。ちなみに2月15日からコンビニエンスストアのファミリーマートでは、「ウマ娘」との期間限定コラボ商品が売り出された。その中には蜂蜜ドリンクもあった。コラボ商品の販売初日、SNSでは味の感想や「買えなかった」という報告を含め、いくつもの投稿であふれ、アニメでの蜂蜜ドリンクの愛称「はちみー」はツイッターのトレンドにもなった。

 かつて、日高地方の東端に位置するえりも町は「何もない」と唄われたこともあるが、海岸線には奇岩が多く、情趣に富む光景が広がる。個性ある食材と合わせてもっともっと注目されてよい地域だ。「ウマ娘」は、日高地方の潜在能力を引き出す好機になるかもしれない。(T・T、終わり)
(画像は、「牧場見学の9箇条」のパンフレット)

20人の方がこの記事に「いいんでない!」と言っています。