(写真は、一般財団法人田中記念劇場財団の阿部基良評議員)
ーー劇場の持つオーラですか。
平田 劇場は場の表現であり、言葉の表現、身体の表現でもあります。やはり空間の持つ力は大きい。空間の持つ力を醸成していくのは、なかなか難しい。過去に公演された作品なども空間の力になっていきますからね。
阿部 隣には北9条小学校がありますが、その小学校とは再開発事業そのものも連携しながら進めています。この劇場についても、小学生たちの発表の場として利用してもらいたい。小・中学校では、ダンスが必修科目になっているので、そういった発表の場にも提供したい。200席ぐらいなのでご家族が集まるには最適な広さです。
隣接するスターツコーポレーション(本社・東京都中央区)の「ホテルエミオン」とも連携しようと話を始めています。宿泊客が使いたい場合には、貸出しスペースにしたり、宿泊客に観劇チケットを付けることなども検討しています。
ーー劇場の上層階に、実際に人が居住するのは、まさに日常に演劇があるということで、とても魅力的です。
田中 住民に支えてもらう劇場にしたいと思ってサポーター制度も取り入れることにしました。多くの住民の方々にサポーターになっていただき、劇場を含めて「さつきた8・1」を好きになってもらいたいですね。
ーーところで、こけら落とし公演は決まっていますか。
平田 それは、芸術監督が決めることですが、まだ最終的には決まっていないようです。芸術監督から提案を受けて決めようと思います。芸術監督が創作した演劇も候補の一つですが、札幌のプロフェッショナルな専門劇団である北海道演劇財団の付属劇団も含めて、それぞれ1、2本ずつということもあるのではないかと思います。
ーー市民の期待も大きいですね。
平田 演劇関係者としては、この劇場をワンステップとして、全国へ、世界へ進出していくきっかけになればいいなと願っています。最近は、札幌の劇団に東京の俳優が客演(俳優が自分の所属する劇団以外に臨時で出演すること)するようになってきました。以前は、逆はあっても、そんなことはありませんでしたから、そういう意味では、札幌の演劇は全国の中でも注目されています。この劇場がその流れを加速するきっかけになればいいと思います。
ーー東京と比べて札幌の演劇界に特徴はありますか。
平田 2012年から毎年冬と夏に各1ヵ月ずつ「札幌演劇シーズン」を開催していますが、これは札幌の演劇界にとって大変大きいことだと思っています。東京の演劇は、エッジの効いた演劇と言われていて、通の人に向かって表現していく傾向が強くなっています。美術でいえば、現代アートのようなもの。芸術はそうした方向に向かいがちな側面がありますが、「札幌演劇シーズン」は、札幌の劇団が過去に公演した作品の中で、評価の高いものを再現するというシステムで、多くの市民に楽しんでもらえる演劇をつくっていこうというムーブメントのきっかけにもなりました。それは、東京と違う大きな特徴だと思います。
ーー札幌が日本の演劇の中心地になってほしいと個人的には考えています。
平田 ヨーロッパの演劇の歴史を振り返ると、ミュージカルをはじめとして、ロングラン公演はロンドンやパリ、ニューヨークなど大都市で行われます。地方都市は、そこに住んでる人たちが、気楽に楽しめるような作品が上演される傾向があると思います。札幌が全国の演劇の中心になるようなことが生まれてくれば良いですが、当面は地元の人たちがきちんと楽しめる演劇が、常時公演されていることを目指していきたいと思います。
ーー俳優たちが東京に出て行かなくても、札幌を拠点に活動できるようになれば良いなと……。
平田 ええ、それは本当にその通りです。一つの作品が年間数十回公演できれば、そうなるのではないか。今は10回くらいの公演が限界です。一つの作品ではなくても、2~3本合わせて年間50回くらい公演できれば、そうなっていくのではないでしょうか。
ーー公演が継続してできない理由は何でしょうか。
平田 いくつか理由があります。オーケストラの札幌交響楽団は、財政基盤が約9億円で、事業収入は約3億円。行政の支援が約3億円、企業・民間の支援が約3億円という割合です。外国の劇団も、大体そういう財政割合になっています。札幌の俳優が札幌を拠点に活動できるようになるためには、このような財政割合が必要になります。1/3の事業収入を得るためには、年間50回程度の公演が必要ではないかということです。それ以外に、行政や民間からの支援があれば、数十人の俳優が札幌の演劇でやっていけると思います。