(写真は、一般財団法人田中記念劇場財団の平田修二専務理事)
ーー再開発ビルに劇場を組み込むことは、大変な決断だったのでは。
田中 市街地再開発組合として劇場をつくることになったら、互いの合意が必要ですが、地権者の一人である私が、自分の権利床を使うため他の組合員に迷惑をかけられません。他の地権者にも、ご賛同いただいています。私が代表取締役をしているJBEホールディングス(札幌市東区)がつくりますが、劇場がある街ということで、マンションデベロッパーにとっても大きなセールスポイントになります。地権者の皆さまのご協力をいただいて良かったと思っています。
ーー再開発事業の街区名は「さつきた8・1」、劇場の名称は「北八劇場」に決まりましたね。新しい劇場は、札幌の演劇界にどんなインパクトを与えますか。
平田 私は、札幌で50年ほど演劇プロデューサーをしていますが、演劇に関わり始めた頃は、演劇があまり認知されていませんでした。何度かヨーロッパに行く機会もできて現地に赴くと、街の中心に広場があって、その広場を取り囲むように劇場が一つ、二つとあり、劇場は街の中心になっていました。劇場で催される公演は、街に奥行きを与えるものだと自分の目で見て感じ、とてもうらやましいと思いました。
約25年前、北海道演劇財団の設立に参画して、ソフト面でプロフェッショナルな演劇をつくる仕組みを構築してきました。その過程で、いくつかの小さな劇場をつくることにも関与しました。今、札幌には三つの小さな劇場があります。琴似のコンカリーニョ、中島公園のシアターZOO、ファクトリー北向かいにあるBLOCH(ブロック)の3つが演劇公演を主目的にしています。いずれも演劇団体が経営しています。ヨーロッパのように街の広場に劇場があって、それが社会と影響し合うようなことが、なかなかできていないのが現状です。
今回、縁があって田中理事長にお話しをさせていただき、具体的に進むようになりました。街の中心にある広場に付随するような劇場にはなりませんが、「さつきた8・1」は、駅に直結していて、文化発信の拠点である北大にも近い。界隈性があるし、アトリウムもできて公開空地も広くなるので、劇場と連動してムーブメントが起こるような広場的要素は盛り込めると思います。
「北八劇場」では、自分たちの劇団は持ちませんが、芸術監督を配置して、俳優で演出家、劇作家の納谷真大さん(演劇集団イレブンナイン)に就任していただきました。今、札幌では約90の劇団があって活動しています。劇場は、さきほど言ったように演劇を主目的にしているのは三つですが、クラシック音楽系のホールなどを含めれば、演劇ができる会場は約20ヵ所あります。
ーー「北八劇場」の客席数は226席とお聞きしています。
平田 再開発区域の中でどれだけ面積が取れるかという制約がありました。東京や海外から演劇を呼ぶ場合には、数百席がないと難しいと思いますが、札幌市教育文化会館の小ホールや札幌文化芸術劇場hitaruの小ホールでは200人規模で年2~3回の演劇を行っています。そうした規模の公演が、「北八劇場」でも可能になります。
私たちの志は、いつまでも東京や海外から劇団を呼んでくるのではなく、札幌でつくられた作品が東京や海外に出ていくようにしたいということです。その受け皿になるような劇場にしたい。先ほどの三つの劇場は、100席から170席くらいなので、それらよりもひと回り大きく、照明、音響も整備されていて演技がしやすい環境づくりに神経を使いました。ですので、設備面でも結構お金がかかっています。
田中 俳優の生の声を直接聞くには、200席くらいがちょうど良いサイズだと思います。2階席もあって、1階の後ろまでが近い特徴があります。札幌の演劇を盛り上げることが大きな目的ですが、地域の劇場として地域に貢献するのも大きな目的です。一般の演奏会や発表会にも積極的に対応していきたい。多目的でさまざまなことができるので、多くの方々と連携していろんなことができるようにしたい。
ーー演劇だけではなく、お笑いの文化発信にも貢献できそうですね。
平田 機能的には、どんな演劇にも対応できる装備になっていますし、演劇以外にももちろん使えます。落語にも適していると思います。東京の落語の定席寄席は、200席~300席ですから、ちょうど良いサイズなのではないでしょうか。
笠島 「北八劇場」の座席は、観やすく座りやすい席なので、高齢者からお子さままでゆったりと鑑賞できます。もちろん車椅子にも対応しています。前方の客席は可動式なので、舞台を張り出してより広く使うこともできます。
平田 前の3列を取り外すと奥行9m、横幅10mで舞台が非常に高い。表現の場としては、とても良い環境です。劇場の持つオーラというか、雰囲気はとても大切。そういう空気感ができてくれば、多くの人たちが使いたいと思ってくれるでしょう。一般的なホールとは違う役割を果たしていきたい。