酪農学園大学(江別市)獣医学群は、獣医学系学部がある国公立11大学、私立大学6大学の中で、私立大学としては、日本で初めてヨーロッパ獣医学教育機関協会(EAEVE=イーブ)の国際認証を取得した。また、一つの大学が、単独で取得するのも日本初となる。これまでにEAEVE認証を取得しているのは、北海道大学獣医学部・帯広畜産大学畜産学部の共同獣医学課程と山口大学・鹿児島大学の共同獣医学部の国公立4大学だった。(写真は、酪農学園大獣医学群のEAEVE認証取得記者会見)
酪農学園大獣医学群の今回のEAEVE認証取得により、同大の獣医師養成教育カリキュラムが、国際水準であることが認められ、国家試験合格後には、1日目から実践的な治療に当たる、スキルを備えることができる。また、食料安全保障の観点から、牛肉などの輸入検疫の際に必要な、国際水準を保証する獣医師の育成にも繋がる。
酪農学園大獣医学群は、2011年頃から獣医学教育の質を維持、発展させるため、教育研究体制の充実や動物病院を含めた実習環境の改善、獣医学教育の第三者評価、国際通用性などを柱にした獣医学教育の改革を進めてきた。その中の一つとして、国際通用性を確保するため、2016年からEAEVE認証取得に向けた取り組みを開始。生体ではなく牛や馬、犬などのモデルを使ったシミュレーターで訓練する「スキルスラボ」の整備、「附属動物医療センター」の改築を進めてきた。
そうしたハード整備に加えて、少人数でのハンズオン実習など、知識偏重教育から実践教育を重視したカリキュラムを2021年からスタートさせ、多様な動物種の臨床症例数を積み重ねてきた。こうした中、2019年10月の予備審査、2023年10月の最終審査を受け、2024年12月に、36項目の基準をクリアしていることが認められ、EAEVE認証を取得した。
(写真は、高校校舎を改修した「スキルスラボ」棟)
(写真は、「スキルスラボ」内のモデルを使った実習室)
EAEVE認証取得のために整備した「スキルスラボ」棟は、60年前に建てられた酪農学園グループの高校校舎を改築したもので、一棟すべてが「スキルスラボ」となっているのは、EAEVE認証学部としては国内唯一。3階建ての建物内には、臨床実習室や手術実習室、麻酔実習室など10部屋に分かれ、動物のモデルを使った血液採取やお産介助、心臓マッサージなどの実習ができる。また、動物病院を模した部屋もあって、レジ打ちや薬剤調合のトレーニングなどもできる。
(写真は、「附属動物医療センター」)
「附属動物医療センター」は、2004年に開設した動物の二次医療病院で、EAEVE認証取得のために犬の入院室をつくったほか、うさぎやハムスター、トカゲなどのエキゾチックペットの治療にも対応できるように改修を行った。こうしたハード整備の他にも、1学年120人の学生に、4~5人単位のハンズオン教育を徹底するため、教員数を60人から104人に増やした。EAEVE認証取得のために、ハード・ソフト整備に要した費用は約10億円。2024年度卒業の学生から、EAEVE認証の大学教育を受けた対象になる。
EAEVE認証を取得した大学を卒業して獣医師国家試験に合格すると、イギリスで英語試験に合格すれば、同国の国家試験を受けることなく獣医師として働くこともできる。酪農学園大の岩野英知学長は、2024年12月20日の会見で、「獣医を養成する大学として、受験生から選ばれるために、EAEVE認証取得は大きな意義がある。国際的な獣医師のレベルを保っていくためにも効果がある」と話した。
また、獣医学群獣医学類獣医臨床病理学ユニット教授でEAEVE実務チーム室長の鈴木一由氏は、「認証取得で最も苦労したのは、教員の意識改革だった。その点、EAEVE認証のために不可欠な学生委員会を設置したことで、学生たちが前向きに教員たちに提案したことが、効果的に機能した」と語った。鈴木氏は、獣医師のレベル向上とともに、国際水準の獣医師が育成されることで、病気が多発している国や、薬剤で成長を促進している国からの牛肉輸入停止を発動できる点も強調していた。