6月末に萩生田光一文部科学大臣によって北海道大学総長を解任された名和豊春氏(66)が22日、『私が解任された本当の理由』と題して講演した。名和氏は解任騒動の前後から1年半以上にわたって沈黙を守っていたが、初めてこの事件について口を開いた。「北大総長解任の真相を究明する市民の会」の主催によるもので、会場となった札幌エルプラザ3階ホールには約100人が集まった。以下、名和氏の講演要旨を抜粋して掲載する。(写真は、『私が解任された本当の理由』と題して講演する名和豊春氏)

「この講演の目的は北海道大学の教職員、数十万人の本学OB、OG、140年にわたって北大を愛し続けてくれている市民の方々に真相を知ってもらい、皆さんに将来どうしていくかを考えてもらうために行うものです」

「調査委員会の調査報告書を読んだが、私ひとりの判断ではいけないと思い、信頼のおける知り合いにも読んでもらいました。調査には、誘導尋問や誤導尋問が多く、聞かれている人が『そんなことはありません、私は知りません』と言っても、調査した人が執拗に『何かあるでしょう、本当にあるでしょう』と聞き、創作されて私は犯罪者のように扱われました」

「私は、総長の就任前から工学系の教育の在り方について、文科省の考え方を十分考慮して新しい政策を進めてきました。文科省も大学改革の推進に寄与する人材として期待したのではないかと思っています。荻生田文科相も解任会見の際には『大学改革に頑張っていることは認める』と発言していますから、期待されていたのかもしれません。しかし、私は様々な政策が出てくることに対し、必ずしも『正しい』とは言いませんでした」

「私は総長として、予算ありきではなく教職員をどうやって大切にするかということを前提に考えました。人件費を削らず物件費を削ってでも人は守ろうとしました。このことは文科省からすると、とんでもない発想だったのでしょう。北大が、これから考えなければならないことは『食料』だと思い、フードバレー構想を掲げたことがあります。同様の構想を進めていたオランダの大学と提携して、文科省に頼らず独自に財団を作って独自予算を持って動こうとしたこともあります。
 自立した大学をつくるという本来の独立法人化の精神に戻って大学改革を進めようとしました。それは逆に言うと、大学の自治が強まり、文科省主導の大学ではないものをつくろうということに繋がるわけです。文科省から北大の事務方にはたくさんの人が来ていますが、予算を取るために採用することはしたくないとはっきり言いました。また、官製談合や不正経理はしてはいけないということもかなり厳しく言いました。そういったことが引き金になって、何らかの口実を設けて解任に繋がったのではないかと思っています」

「もう一つ、なぜあの時期に騒動が持ち上がったのかがわかりませんでした。よくよく考えてみると、あの頃はいわゆる『加計・森友事件』が大きな問題になっていました。本学の獣医学部長が国会まで行って加計の準備不足を陳述しようとしていました。政府は本当に危なかったのです。財務省も文科省も省庁改変が必要じゃないかという声も出ていました。そんな時、マスコミを使って『パワハラ』というピンポイントで、私に流れを持ってきた。調査委員会では『パワハラ』と報告されていた事柄は、総長選考会議では認定せず、同会議が文科省に解任を申し出した時にも『パワハラ』という言葉はなく、『総長として適切とは言えない行動』とし、『パワハラ』を取り消していたのです。最初の『パワハラ』という言葉がなかったらどうだったのでしょうか」

「大学の教育や研究が商業化され、さらには(文科省の)天下りと両立させるようなシステムがつくられたら、大学の自治はどこに行くのでしょうか。それを阻止しようとした私の態度は、確かに文科省から見れば敵対勢力だったでしょう。今後、大学の自治、学部の解体が起きてくる可能性が高い。大学の自治を守って知の創成を守らなければいけない。そのためには、現場を大切にしなければならないと今も考えています」

「騒動の当時、事務方にいて文科省に戻ったスタッフが、こう言ってくれました。『厳しいことは言ったけど、名和さんは私利私欲を持っていない』と。私のモットーは、私利私欲を持たず国の大計となる高等教育を司る学長としてなすべきことをなすことです。これに殉じても仕方がない」

 名和氏は、モットーを貫徹しようとしたことで文科省と後戻りできない段階まで行ってしまったようだ。最後に発した「これに殉じても仕方がない」という言葉には無念さがにじみ出ていた。この言葉を語る時は、声に詰まり嗚咽を押し殺している風だった。今回の講演会は第1弾として行われたもので、主催した「北大総長解任の真相を究明する市民の会」では、引き続き真相究明の講演会を続けていく。



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