東京都庁職員から夕張市に派遣され、2年2ヵ月過ごした後に夕張市長に立候補して初当選した鈴木直道氏(30)が市長就任6ヵ月で“鈴木カラー”を打ち出し始めている。財政破綻で全国自治体のマイナスモデルだった夕張市を逆手に取って、少子高齢化による人口減と財政難に直面する自治体がどう未来を切り開いていくか――夕張市の取り組みを先進モデルとしてプラス面での情報発信に意識を切り換えようとしているからだ。
 乳幼児の医療費無料化や公営住宅の活用、高速道の乗り降り自由化など、新たな財源ゼロでも取り組める施策を次々と打ち出す。「退路を断って市長に立候補した」という弱冠30歳の鈴木市長の真骨頂が試される。(18日、キャリアバンクのオープンセミナーでの講演を元に構成。写真は鈴木直道市長)
  
  炭鉱の閉山処理に584億円を投入し、炭鉱から観光への度重なる投資と不適切な会計処理で財政破綻した夕張市。税収9億円のマチが353億円の借金を抱え、毎年20億円ずつ返済して18年間で完済する再生計画が目下進行中だ。
 
 人口減のスピードは早く、今年4月末の1万807人から6ヵ月足らずで1万600人と200人以上が減少している。65歳以上の高齢化率も44%。
 再生計画が終了する2035年には人口5181人、高齢化率48・9%になると予測され、夕張は日本の将来を投影する自治体と見られている。
 
 鈴木市長は、「今までの夕張市は全国自治体のマイナスモデルだったが、『夕張がここまで行政サービスをやっているのなら』と他の自治体が参考にするプラスモデルを打ち出して情報発信をする」と宣言する。
 
 鈴木市長が典型例としてあげるのは①乳幼児医療費の無料化②バス路線とJRがある自治体としてJR北海道が開発したDMVを全国初導入する③空きのある公営住宅の利活用④高速道の乗り降りl自由化⑤東京消防庁との提携による新しい自治体間連携モデルの構築――などだ。
 
 乳幼児医療の無料化は、副市長ポストを置かないことで財源を生み出し、子育て環境を整備して少子化に歯止めをかけようというもの。公営住宅の活用は、来年度に所得制限などの規制緩和が実施されるため、改修自由、原状復帰義務なしといった使い勝手の良さをアピールして若年層への入居を促す。
 
 また、高速道については10月29日に夕張とトマム間が開通して夕張は通過自治体になる可能性が高まるため、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)と組み全国初の乗り降り自由化を実施する。ETC搭載車のみで事前に申し込みが必要だが、途中下車しても料金が変わらないシステムは全国の高速道にとってモデル事業に位置づけられている。12月末までの限定的な措置だが、来年のメロン売り出し時期にも取り組みたい考え。
 
 鈴木市長はこうした行政サービスの充実とともに市役所内部の改革にも手をつける。8人程度の職員が13地区に張り付いて住民の意見を聞く地域担当職員制度、成績主義の導入による人事評価システムを導入し市民に公開など、市民自治と新しい行政の有り方をマッチングさせるチャレンジも実践していくという。
 
 夕張市の職員は、他自治体からの派遣職員も併せて総勢167人。その中で鈴木市長よりも若い職員は17人しかいない。「私はある意味で崖っぷちに立っている。夕張を再生させないと生きている価値がないというくらいの気持ちでモチベーションを高めていきたい」と語っている。



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