――函館では、共同出店という形で「エスポワール&どんぐり」を展開していますが、地元のパン店とのコラボといって良いと思います。今後もそうした出店スタイルが増えますか。
野尻 あっても良いかなと思っています。ただ、これからは、「どんぐり」という名前を出す必要はないのかなと正直、思っています。
――でも、「どんぐり」の集客力、「どんぐり」だからというのがあるのではないですか。
野尻 例えば、道内でも道外でも良いのですが、相手先との共同出店で「どんぐり」の名前を使って人気が出るようになると、「どんぐり」だからということになって、結局、「どんぐり」ありきになってしまいます。そうではなくて、例えば事業承継なのかどうかは別にして、先方とタイミングが合った時に、「どんぐり」が関わらせていただいた場合、「どんぐり」という名前は特に出さずに一緒にやらせてもらうことで、既存のパン店が地域で人気店になっていけたら、地域の人たちは「最近、地元のあのベーカリーは頑張ってるよね」となります。こうしたことが、その町にとって、一番大切なことだと思います。「どんぐり」が来たから良くなった、ではいけない。地元のパン店にはそれぞれストーリーや歴史があるので、それを残しながら協力する。その方が、地元の方との繋がりを継続できると思います。
ーーパン店再生は、あくまで黒子としてお手伝いをすると。
野尻 「どんぐり」は、札幌圏をメインに展開しているので、それ以外の地域では、「どんぐりだからできること」を既存のパン店にプラスアルファでお手伝いすれば、自分たちの価値も上がっていくのかなと思います。「どんぐり」を大きくしていくというよりも、「どんぐり」の価値を利用して、何か新しい取り組みができたらという思いが強いですね。
――パン店は薄利多売だと思います。再投資しながら地域とのコラボができるぐらいの資本の厚みがあるのは、まさに地域の人たちに支えられてきた歴史の重みです。
野尻 ありがたいことです。そうした歴史は、店の従業員たちが、99%つくり上げてきたと思います。私は、こっちへ進もうという方向だけを出して、基本的に会社を経営しているという感覚はほぼありません。そういう意味では、当社の従業員たちは、日本でトップクラスの人たちではないのか、と思うほどです。私が言うのもおかしなことですが、それが率直な思いです。
――手作りおむすびも出しましたが、「ル・トロワ店」だけで展開ですか。
野尻 おむすびを他の店舗でも展開していきたいかと言われると、別にそれをやりたいというわけではありません。楽しい場所だったり、わくわくする場所だったりをつくっていけたらと思っておむすびをスタートしたので、それを増やしていこうとは考えていません。例えば、札幌駅の構内で、場所を貸していただければ、パン店の「どんぐり」、おむすび屋の「どんぐり」、そうしてもう一つ、別事業としての「どんぐり」を一つのセットとしてやっていくのも面白いと思います。
もう一つの新しい「どんぐり」は、例えば、1年おきに事業が変わっていくとか、販売している商品が変わっていくというコンセプトでやってみたい。でも、次々とお店を増やすことがゴールではないと思っています。
――新しいパンの開発は、サイクルを決めて取り組んでいるのですか。
野尻 毎月、新商品を作っていく中で、全部がサンドイッチになってしまったり、全部が甘いパンになってしまったりしないように、バランスをとりながら商品開発をしています。惣菜パンも、毎月生まれてくるものを、既存のパンと入れ替えたりして商品の活性化を行っています。
――今年の秋には、札幌の中心部にも新店舗を出店しますね。どのような位置付けの店舗になりますか。
野尻 札幌中心部に今秋出店する店舗は、これまでと違うスタイルで展開します。「どんぐり」の定番とも言えるちくわパン、ベーコンエッグ、カレーパン、ミニクロワッサンとは違うイメージのお店でスタートしたい。見た目はとてもおしゃれなパンですが、「どんぐり」のしっかりした味のパンに挑戦します。「どんぐり」のパンは、見た目は「こてこて」で、味も「こてこて」じゃないですか。でも、新店舗では、見た目がとてもスタイリッシュなのに、味はしっかりと「こてこて」を継承するようにしたい。いわゆる、「スタイリッシュこてこて」(笑)をイメージしながら、パン作りを進めています。
どうしても、今以上に工夫しなければならないので、少し単価が上がってしまいそうです。観光客の方にも来ていただけそうな場所なので、ちくわパンとか本当のメインどころのパンは何点かは揃えますが、それ以外は、他の「どんぐり」にはない新店舗限定でラインナップしていきます。
――「スタイリッシュこてこて」とは、言い得て妙な語感ですね(笑)。なぜ、それをやろうと。
野尻 福岡に人気パン店さんがあります。東京の表参道にもありますが、このパン店が、すごく素敵なのです。見た目は、とてもかっこいいパンなのに、味はこってりしています。そんなパンがあることを知って、従業員の間でも「ああいうパン店をやりたいね」という話になりました。出店場所が札幌の中心部ということもあったので、「まさに、ぴったりと合うね」ということになり、挑戦することにしました。
――新しいお店は、惣菜系のパンがメインになりますか。
野尻 惣菜を基本にしたいと思っています。料理屋さんが作ったパンのようなイメージに持っていけたらと思っています。(終わり)