ーーこれからが始まりということですが、SHIROのどこをどう発信していきますか。
今井 SHIROが唯一できることは、モノづくりの風景を残すことです。SHIROの製品やブランドは、目で見て分かると思いますが、それはある意味で閉ざされた空間(工場)で製造されたものです。普通は、企業防衛の意味からも閉ざされた空間で行う作業を、積極的に見てもらおうと考えました。この場所でコーヒーを飲んだり、ジャングルネットで子どもたちが遊んでいる、すぐ隣で従業員が真剣にビーカーを振っていたり、モノを作っていたりする風景は、おそらく子どもたちの原体験として残ると思います。
そうしたモノづくりの風景が、頭の中に残った子どもたちは、大きくなってもモノを作ることが普通のことだという意識を持つと思います。それが、この工場の目的です。本来、企業は絶対にこうしたことはやらないと思います。たくさんの企業秘密がありますから。この工場も、見る人が見たらSHIROのノウハウなどが分かると思います。
ーー企業秘密が盗まれかねない?
今井 構わないと思います。社会がより良くなるきっかけになるのであれば、(閉じるのではなく)開いた方が良いじゃないですか。この工場がきっかけになって、『開く』ということが、当たり前の世の中になったらいいなとも思っています。SNSの普及で個人で動くことが多くなり、みんなで良いことを共有することが少なくなっています。どんどんと閉鎖的になってきています。開いていくことの大切さという、本質的な気付きを持ってくれればいいなと。
ーー今井さんの、その考えというか、世界観はどこから来ていますか。
今井 自分が大事にしているものは、みんなで共有した方が良いじゃないですか。握りしめて、死ぬのではなくてね。どちらが良い人生かと思った時、自分の手から全部放して死ねた方が、私は良いなと思いますし、それが、本来の人としてのあるべき姿なのかなと。(人生の)折り返し点も見えてきて、社会に何が残せるのかなと思った時、きちんと手放して終える人生でありたいと。みんながそうできると、社会は良くなっていくと思います。
ーー株式公開やM&Aの誘いも多いと思います。
今井 全く興味がありません。そうした時間があるのなら、良いモノを作ったり、技術を磨いたりした方が、社会に対して価値があると思っています。
ーー設立30数年で年商150億円の大台に乗りました。まだまだ、伸びる要素があると思います。
今井 私は、売り上げの伸びにあまり価値を置いていません。お客さまに受け入れてもらえることをやり続けていけば、結果として売り上げはついてくると思います。売り上げが下がるのであれば、お客さまに必要とされていない会社になっていることだと思う。売り上げ目標などは、今も見ていないのです。福永(敬弘代表取締役、49、リクルート出身、2014年入社、2021年7月代表取締役就任)が、きちんと管理してくれているので、このようなことが言えるのですが……。数値目標などがないと会社としては、おかしい。だから、私は社長を降りています。代表権はありますが、そこに意味があるとは思っていません。
ーー経済界活動については。
今井 興味がないのです。私は自由になりたいですし、自由にさせてもらえることによって、社会に価値があることを生み出せるのかなと思っています。要職に就くのではなく、自由にやらせてもらいたいですね。
ーー今も、自ら製品開発を続けていますね。
今井 もちろんずっと続けています。全国から素材も探しています。クリエイティブなことは好きなのですが、経営的なことにはあまり興味がないので、その部分は社長にお任せしています。この工場は、私の頭の中にある一部を具体化したものです。砂川だけでなく、全国でさまざまな仕掛けをしている最中なので、公表できるタイミングでお伝えしたい。いずれにしても、2年半前にファウンダーに退いて自由になったので、すごく意識が広がりました。SHIROというブランドが、社会に何を残せるのかという目線で動けるようになりました。この工場は、SHIROが残していくもののスタートとなるものです。この工場のように、目で見て分かるものを一つずつ作っていって、皆さんに(SHIROの)意味とか価値、考え方をお伝えしていきたい。
(写真は、樺戸三山を望める「みんなの工場」)