ーー2020年2月28日に全国初の緊急事態宣言が北海道に出ました。

 鈴木 その頃、9割ぐらいのの飲食店の方は、楽観視していました。しかし、私はとんでもないことになる、と直感的に感じていました。3月の売り上げがないことは、飲食店にとっては致命傷。1、2月は厳しいですから余計です。どうしようかという中で、私はクラウドファンディングを行った経験もあったので、緊急事態宣言が出てから1週間後に、北海道内全ての飲食店が参加できるクラウドファンディングを企画しました。
 アクトナウの穴田ゆか代表取締役に賛同していただき、トリプルワンの伊藤翔太社長と3人で、スピーディーに始めました。とにかく、最初にひな形になるようなクラウドファンディングのシステムをつくる必要があると思いました。その後、クラウドファンディングを利用した飲食店支援が全道各地域、全国各地域に広がっていきました。でも、クラウドファンディングによる飲食店支援は、あくまで延命。考える判断をするための延命であって、決して状況を変えるわけではありません。

 自分の店はどうかというと、やはり厳しい状況でした。すすきのの一等地なので当然ですが、家賃がかなり響きました。札幌駅前にもお店があるので、経営を圧迫していました。当店の事業モデルが、2次会需要をメインにしたのですが、2次会は不要不急の、まさにど真ん中。全国で、最初に緊急事態宣言が出たのが札幌で、その中で一番きつかったのは歓楽街すすきの。そしてそのすすきので一番厳しいのは大箱の2次会メインのお店。まさに苦しさの頂点にあったのが、私たちのようなお店でした。

 でも逆に考えれば、最初に復活のモデルをつくるチャンスがあるのも私たちです。とにかく、様々なことに取り組みました。家庭では子どもは休校、旦那さんは在宅勤務なので、お母さんがずっと食事を作らなければならないから大変。一方で、私たちのお店のシェフは時間がたくさんあるので、お店にある食材で料理を作って提供することもしました。「ミールキット」といって、ある程度プロの料理人が7割、8割ぐらい調理を終えたものを、ご家庭で少し手を加えて食べてもらうサービスです。

 こうした様々な取り組みを行いましたが、家賃を回収するほどの売上げにはならなかった。このお店では、家賃を含めて毎月400万円ぐらいのお金が出ていきます。まだ休業協力金やコロナ融資がなかった最初の頃でしたから、やむなく当社も約1000万円を借りました。本来なら近々に無借金経営になる予定だったんです。1000万円を借りましたが、瞬く間になくなっていきます。これを繰り返していたら、コロナが収束しても借金が膨れ上がってしまう。清算を考えなければいけないかな、という段階までいきました。それならと、社員総動員でウィズコロナの時代に合った飲食モデルつくろう、と知恵を出し合うことにして、その期限を昨年6月に設定しました。

 それまでにアイデアが出なかったり、対策が取れなかったら、社員には申し訳ないが一旦閉めることにしました。これ以上借り入れを増やすことができないからです。その代わり、それまで思いつくことを、徹底してやりました。そうすると、不思議なことに、私自身はワクワクしていました。とんでもない課題が舞い込んできたからです。私は、借り入れの連帯保証をしているので、会社が倒産したら私の財産もなくなってしまいます。だったら、家を借りてもしようがない、お店に住むしかないーーと冗談とも本気ともつかないことを考えました。

 社員たちと一緒に打ち合わせして、そんなことを話していたら、他の社員たちもお店に住むと言い出したのです。それでピンと来たのです。「待てよ、一人月1万円会費で100人を集めたら存続の可能性あるのではないか」と。1万円頂くためにどうするか、というので、昼間使っていない時間帯はコワーキングスペースにしようと考えました。

 実験的に昨年7月に、無料でコワーキングスペースとして開放しましたが、お客さんは全然来てくれませんでした。他のコワーキングスペースを視察したら、基本的に利用者は仕事をしてさっさと帰ってしまう。利用者同士の会話があるわけでもない。そもそも、「みんなでお店に住もう」から始まっている取り組みなので、この場所で仕事をしてもらっても良いけど、それがメインではないと考えました。利用者同士が会話をして、何かがここで生まれるような空間にしたいと思い、適切なワードがないかなということで、「村」という言葉が出てきました。すすきのに100人が住む村をつくろうとなったのです。「すすきの村をつくので、村民になりませんか」と募集すると、反響があって、昨年9月からスタートして約40人が参加してくれ、そこから村民がどんどん入村者を紹介してくれて、現在は160人を超えました。
 これで、お店の家賃は払えるので、何とか生き延びることができるようになり、休業協力金も出るようになったので倒産の危機から脱しました。

 ここにいると、様々な村民が来てくれますし、私は村長として相談事に対応したり、一緒に遊んだり、ビジネスをつくったりしています。メンバーの半数以上は経営者、フリーランスですが、飲食経営者は少なくて、IT関係、デザイン関係など多岐に渡ります。年代は私の前後が一番多いですが、50歳、60歳の人もいます。高校生が約20人ぐらいいて学校帰りに勉強したりしています。



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