アトリエテンマ長谷川演代表取締役インタビュー「『椿サロン』でホンモノの文化を根付かせたい」

経済総合

 インテリアデザインとリノベーションを手掛ける設計・デザイン会社、アトリエテンマ(本社・札幌市中央区)を率いる長谷川演(ひろむ)代表取締役(54)。1990年の設立以来、30年を超えて手掛けた物件も1000件を優に超える。その長谷川さんがデザインと同じほど情熱を注いでいるのがカフェだ。「椿サロン」と名付けたカフェでは、北海道の食材だけで作る無添加の「北海道ほっとけーき」を提供、道内外で評判を呼んでいる。その「北海道ほっとけーき」を使ったフルーツサンド「椿さんど」も開発、同名のテイクアウト専門店も増やしている。長谷川さんは、「椿サロン」を通じて何を表現しようとしているのか、インタビューした。(写真は、アトリエテンマ・長谷川演代表取締役)

 ーー設計・デザイン業界にもコロナの影響がありますか。

 長谷川 コロナの影響はあまりないですが、飲食店などがしっかりとした店をつくる時代ではなくなってきたことの影響があります。ネットには様々なデザインの情報が出ていますから、それを見ながら工事屋さんに、「ここをこうして」と言えばできてしまう時代です。そうしたこともあって僕らの仕事は、減っていくばかりですね。一般的に言えば、本気度を持って店づくりをしようという札幌、北海道の経営者は、ほとんどいなくなってしまいました。自分たちの手弁当でやるという人たちが多くて、最近できた店で「素晴らしい」、「すごいね」という店はほとんどないはずです。「そこそこいいね」、「まあまあいいね」というところで何となくスタンダードができてしまっています。

 ーーそんな縮小する市場でどう生き残っていきますか。

 長谷川 インテリアや建築などのデザイン業は、時代をどう捉え、問題をどう解決していくかが一番の本質です。それはずっと変わらないと思うので、パイは縮小しても設計やデザインの仕事そのものがなくなるとは思っていません。

 ーーコロナ禍で飲食業は逆風ですが、アトリエテンマが手掛けるカフェの「椿サロン」や「椿さんど」は出店が続いています。

 長谷川 昨年は、「椿サロン」、「椿さんど」は出店ラッシュでしたが、それを狙っていたわけではなく誘われて出店するケースがたまたま重なったのです。特に出店についての戦略はなくて、だめそうな場所には出ないし、条件を含めて良さそうならやってみようかという程度です。そうは言っても出店費用は半端ではないので、慎重に判断しています。

 ーーそもそも「椿サロン」を始めたきっかけは。

 長谷川 「椿サロン」を始めてから13年目になりますが、出店のきっかけは数多くの店をデザインしたので、そろそろ自分で店が欲しくなったから。デザイナーにはよくあるパターンでしょうね。自分を表現する店が事務所の下にあれば、打ち合わせもできるし、ここを見た人から仕事も来るかもしれない。もっとも、ここを見て仕事が来た試しはないですが(笑)。この「札幌本店」(札幌市中央区北7条西19丁目、momijiビル1階)は、元々エステの専門学校でした。公園が目の前にあって環境もいいので、「椿サロン」を開くためにこのビルを買いました。ついでに事務所も引っ越してきたという流れです。

 ーーこの店のイメージ、コンセプトは何でしょうか。

 長谷川 「札幌本店」は、13年間一度も改装していませんが、それなりに味が出てきたと思います。本当にやりたいことをこの店でやりました。こういう雰囲気の店はありそうでないし、誰も出せないテイストです。その分、すごくお金がかかっていますが……。
 デザインの仕事をしていると、皆さんの空間に対する意識が高くないことを実感します。空間の価値をあまり信じていないし、期待もしていない。だから、こういう店をつくることが必要でした。多くの店は10年くらいで改装します。集客が落ちるから改装してメニューも変えて集客力を高めるわけです。しかし、僕は改装するのではなくて、ずっと一定のテイストをキープしていくことが大切だと思います。

 例えば、大学生のカップルがこの店でデートをして、やがて結婚して子どもが生まれ、その子どもが育ってまたここでデートをするような場所が、ある意味で文化と言えるものだと思う。そういう場所が必要だという思いがあって、「椿サロン」を始めました。1日15分でも珈琲1杯を飲んで自分をリセットする場所が大切ではないでしょうか。「椿サロン」をそういう場所にしたい。

1 2 3

関連記事

SUPPORTER

SUPPORTER