2016年が始まった。今年はどんな1年になるのか、誰しも思いを巡らせつつ目標を立て、より良い年にしようと誓うだろう。リアルエコノミーの新年インタビューは、今年も食品スーパー最大手のアークス横山清社長(80)に登場してもらった。この業界に入って半世紀を超えた横山社長には独特の世界観が形成されている。合併統合を繰り返してきたことで時代を切り開いてきた先駆者の眼、業界が刻んできた半世紀の道のりを俯瞰する他者の眼――2つの眼にストックされたデータから導き出される読解力は、“今”という状況をどう捉えているのか。今日からシリーズで横山語録を紹介する。IMG_0720(写真は、格差拡大を指摘する横山清社長)

「2014年4月の消費税3%増税とインフレターゲット政策によって、この1~2年でモノによっては価格が1~2割が上がっているケースもある。首都圏のSMが好調なのは、自助努力というよりもアベノミクスの効果が首都圏にトリクルダウンしているからだ。増税以降、地方と首都圏の格差が加速してきた。所得は、東京と地方では4~5割も違うところも多くなってきた。景気好転による効果も首都圏に現れて、地方では殆どその恩恵を受けていない」
 
「高齢者は使えるお金が多いと言われているが、高齢者の間でも所得の格差は広がっている。万引きの例を見ても分かるが、(万引きは)子供と高齢者が増えている。高齢者の万引きは、10年くらい前なら『出来心でした』と代金を払ったり返品していたが、今、万引きをする高齢者の財布の中は空っぽが大半。孤独で生活苦の高齢者が多くなっているのは事実だ」
 
「こうした格差は、消費の現場を左右し、いろんなところで問題点が出てきている。少子高齢化が基底にあるが、経済が偏り始めているということ。これからますます格差は広がる。食べることもままならない高齢者が、子育て政策のためにひと月に3000円でも5000円でも年金受給が減ったら、いろんな社会問題が噴出するのではないか――そんな感じを私自身は受けている」
 
「繰り返すが、大きな変わり目だったのは14年4月の消費増税。『大変な影響が出る』、『それほど影響はない』と世論は二分したが、『アベノミクスの3本の矢があるから大丈夫だ』という声が強かった。しかし、実際に増税されると駆け込みがあって反動による消費の低迷があって、2ヵ月くらいで元に戻ると思われていたのに消費はなかなか戻らなかった。もう少し待てば、ということだったが、いくら待っても一向に消費は上がらなかった」
 
「現実問題として我々食品スーパー業界は、この10数年に亘って新しい店をどんどん出して増改築も行ってきた。新しい業態も出てきて、食品小売業のパイが増えていない中で完全にオーバーカンパニー、オーバーフロアだ。当然、㎡当たりの効率は下がる。金融環境は少し緩いために企業も何とかなっているが、今後は地方の消費がジワジワと厳しくなっていき、16年になるとどんどん問題企業が出てくるだろう」
 
「金融機関は最高の利益を確保したと言うが、企業向け貸出しは減り続けている。リスクマネーは殆ど出ない状況だ。水の中にいても塩水ばかりで飲めなくて死に至るように、お金の海にいても企業は溺れてしまうような状況が、16年、17年には一挙に現れてくるだろう。金融機関にお金がなくてダイエーがおかしくなった訳ではない。結局、お金はあるけれど貸してもらえなかったことによってダイエーは小売業トップの座から滑り落ちたと言うことだ」
 
「経済が厄介な状況になれば、企業は大きくなれば良いというものでもなくなる。需要が足らないから需要を増やすと言っても、モノは満ち足りている。もっと消費を増やして景気を良くすることは難しい。有形なモノは溢れているのだから。しかし、食品の場合は食べることに直結しており、唯一、消費を安定的に再現できる。食品スーパーの分野はもっともっと競争が厳しくなるだろう」
 
「食品小売業のグロス(総量=パイ)の売上げが増えていない中で、インフレターゲット政策で物価を上げようとしても消費者の財布の紐は締まっており、原料高などのインフレ分を消費者に転嫁(=価格に転嫁)しようとしてもできず、自分のところに転嫁している食品スーパーは多い。大手スーパー(GMS)は実質的には赤字の状態だ。大型店は効率が良くて何でも揃っているのに、事実上展望が開けていない。そうは言っても何兆円ものマーケットがある。投資と維持経費が見合わない状況に陥っているということだ。そういう環境の中で、我々食品スーパーはどうあるべきかという視点が必要だ」(次回に続く)
 


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