北洋銀行は北大との連携協定に基づいて市民向けの医療セミナーを開催しているが、第2回目が15日に同行4階のセミナーホールで開かれた。講師は同行の医療総合アドバイザーを務める浅香正博・北大医学部がん予防内科学講座特任教授(前北大病院長)で、テーマは「胃の病気とピロリ菌」。ピロリ菌が発見された当時のエピソードやピロリ菌と胃がんとの関係などを分かり易く説明した。参加者は約100人、講演後には「ピロリ菌の除菌をしたが、胃がんは大丈夫か」などの質問も出た。(写真は講演する浅香教授)
夏目漱石も悩まされた胃潰瘍は、1970年代までは治らない病気とされていた。ストレスとともに生活習慣から引き起こされると考えられ、薬を飲んでも治らないから胃を取ってしまう手術が当時は行われていたという。
80年代に入って胃の病気の第一次治療革命が起きる。H2ブロッカーの発見で胃酸を制御できるようになったからだ。「酸のないところに潰瘍はない、ということが正しかった。H2ブロッカーなどの薬によって外科手術は激減し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の外科医がいなくなってしまったくらい」と浅香教授。
そして82年に発見されたピロリ菌とその除菌で、胃の病気治療は劇的革命期を迎える。ピロリ菌は、胃のみに根付いて胃潰瘍、十二指腸潰瘍に関連していることが分かり、胃の病気の根源とされている。胃がんにも大きく関連している。
「ピロリ菌の培養に成功したマーシャル博士は当時研修医で、ピロリ菌培養に23回も失敗。諦めかけていたころにイースター(復活祭)で遊びに出かけ、5日間培養のことを忘れて研究室に戻ってきたらピロリ菌が培養されていた。ペニシリンを発見したフレミングのような逸話がある」と浅香教授はエピソードを紹介。
しかし、培養できただけでは細菌が引き起こす病気かどうは分からない。
「マーシャル博士は豚やうさぎにピロリ菌を移植しようとしたがことごとく失敗。そのうち周りから“詐欺師”呼ばわりされて、84年に自ら培養したピロリ菌を飲んでしまった。そうしたら、その菌が胃に移植でき、そこから菌が産生していることも分かり、ピロリ菌が胃の病気の根源物質であることが分かった」(同)
ピロリ菌を発見したウォーレン博士と培養に成功したマーシャル博士は2005年にノーベル医学生理学賞を受賞している。
ピロリ菌は経口感染しかないが、乳幼児期に胃に取り付きずっと胃の中に住み続ける。ピロリ菌は、上下水道が完備していない国に多くて、国内でも今の20~30代にはピロリ菌感染者が少ないが、50代以降には幼少期の衛生状況などの影響もあって多いという。
浅香教授は、「私がピロリ菌の研究に取り組んだころは、理解されなくて『ピロリ』『ピロリ』というものだから『ピロリ教の教祖』と言われたくらいだし、『旧帝大の医学部が取り組むテーマではない』とさえ言われた。今では、それがウソのようにピロリ菌の名前が知られている。現在でも毎年5万人が胃がんで亡くなっているが、ピロリ菌の除菌とその後にも内視鏡検査を数年に一度続ければ、胃がんは撲滅できるだろう」と結んだ。
次回以降の市民医療セミナースケジュールは以下の通り。
7月13日(水)「腰痛の原因と治療」(小谷善久・北大病院整形外科講師)
10月26日(水)「漢方薬は本当に効くのか」(武田宏司・北大薬学研究院医療薬学分野教授兼北大病院栄養管理部長)
1月20日(金)「胃がんと大腸がんの予防」(浅香教授)
入場料無料、問い合わせは北洋銀行法人部(011・261・2579)