北海道信用金庫(本店・札幌市中央区)と一般財団法人北海道信用金庫ひまわり財団の主催による「経済講演会」が、2024年5月14日、札幌市中央区の札幌パークホテル3階パークホールで開催された。講師は、東京大学名誉教授の伊藤元重氏で、テーマは「世界経済の動向と変化する日本経済」。集まった取引先関係者など約650人が、約1時間半の講演を聴いた。(写真は、講演する伊藤元重・東大名誉教授)
伊藤氏は、コロナ後の経済回復過程で需要が戻ったものの、供給が追い付かなかったことを発端に、米国が2021年秋に金利を引き上げことと、ロシアによるウクライナ侵攻による原油高、食料高が重なったことで世界中がインフレに入ったと説明。日本も最初は、輸入インフレだったが、賃金、物価の上昇で国内型インフレになってきたと紹介したうえで、「停滞とデフレの時代は終わった。潮の流れが変化している。このインフレが、デフレに戻る可能性は低いだろう」と話した。
さらに金利について、物価が上がっていく中で、実質金利は下がっているとし、「そのために株値や不動産価格が上昇している」とした。人手不足について、3年後、5年後にはもっと厳しくなると見通しを語り、恒常的な人手不足の元で、賃金をどう上げていくかが経営の課題になると示した。潮目が変わっていく中で、伊藤氏は「ある日突然、黒船がやってくる」と熊本県に進出した台湾の半導体メーカー、TSMCに言及。「TSMCは、熊本で従業員向けのアパートを買いまくっているそうだ。また、高卒初任給が28万円だそうで、そんなことになるなんて誰も思っていなかった。こうした現象は、今後もある日突然出てくるだろう」と語った。
これまでの20年間、日本は金融政策一本だったが、金融緩和を抑えるには、財政政策しかないと話し、公共投資を呼び水に民間投資を増やす産業政策であるGX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)は有効だと話した。「GXでは北海道と九州が有望地域。政府がGDPの3%を毎年GXに注ぎ込むというのは、ものすごい規模。再エネ、省エネなど、自分のビジネスがGXとどう関わるかが重要になってくる」と述べた。
また、DXについて、「デジタルを使って自分たちのビジネスモデルをどう変えていくのかが問われている。デジタルを使って何をやるかではなくて、デジタルを使って今の自分たちのビジネスを変えていくことによって、新しい展開がどんどん出てくる。デジタルを導入すれば、二つ目、三つ目と新しいビジネスモデルが次々に出てくる。何でもいいから、デジタルを始めると次のステップに進むことができる」と締めくくった。