札幌証券取引所は22日、「市場改革セミナー」を開催した。今年6月、札証はアンビシャス市場の上場基準を大幅に見直し、札証本則市場や東証へのステップアップ市場としての位置づけを明確にしたが、このセミナーは道内企業や証券関係者にアンビシャス改革を周知する目的で実施したもので約80人が出席した。セミナーでは上場会社社長による体験談が披露され、今年5月末にアンビシャス市場に上場した北の達人コーポレーションの木下勝寿社長と2001年にアンビシャス第1号上場となったキャリアバンクの佐藤良雄氏がそれぞれ講演した。木下社長と佐藤社長の上場への道のりと上場後のメリットなど、講演の抜粋を3回に分けて掲載する。(写真は、体験談を語る木下勝寿社長)
北の達人コーポレーションは、「北の快適工房」というネット通販サイトを運営し、道産素材を使ったオリジナルな健康食品や化粧品などを販売、年商は約8億円。クレーム産業とも言われるネット通販だが、同社の顧客は7割がリピーターで占められ「クレームよりも『ありがとう』と感謝の声が圧倒的に多い」(木下社長)という。社員は50人弱、平均年齢は28~29歳。年商8億円だが、経常利益は1億4000万円で経常利益率は18%と高い。
木下社長が語った起業から上場までの体験とそこから生まれてきたビジネスについての考え方を抜粋する。
『私は、神戸出身で生まれも育ちも関西。学生時代から坂本竜馬が好きで、竜馬のように時代の変わり目で大きな役割を果たしたいと考えてきた。また、テレビドラマの北の国からが大好きだったので、北海道に住みたいと思っていた』
『学生時代から起業を志していたので、当時関西にあった株式会社竜馬という会社でアルバイトをしたが、そのころ、真田さん(現東証1部のKLab社長)などと一緒に働いていた。当時のアルバイト仲間は50人ほどいたが、あれから20年経って25人くらいが会社を作って上場している』
『学生時代からマーケティングに興味があったので、大学卒業後はリクルートに入った。紙媒体の求人情報誌のころで、そこで5年間あらゆる業界に営業に行った。経済の仕組みや業界の流れが大体わかるようになってきたので、5年経って独立して起業した。ノープランで独立したものの、最初はプランナーとして仕事も順調だったが、2年目で食えなくなった。当時は、商売に対して浅はかな考えで、その時に仕事やお金がもらえれば良いと考え、お客様の満足ということをあまり頓着していなかった。それで、リピーターもなくなり、2年目には財布の中に50円しか入っていない状態。電車にも乗れず、結局廃業して肉体労働のアルバイトをしながら、もう一回事業の機会を待った』
『考えた結論は、ビジネスはリピートが必須だということ。お客様に満足を与える仕事でなければダメだと。 たどり着いたのが、カニとかメロンなど北海道の特産品を扱うネットショップ。私自身、北海道には20回ほど旅行していたし北海道が好きだったので、北海道の商品は必ず売れると感じていた』
『2000年ころ、大阪で北海道シーオージェイピーを立ち上げ、当初は北海道の特産品を扱うナンバーワンサイトだった。そのころはネットバブルの次代。しかし、私自身はバブルを体験しているのでネットバブルも懐疑的に見ていた。ネットで完結させる商売は難しい。なんとか物販を絡めて行こうと考えて、ネット通販を選んだ』
『2000年ころは、ネット通販がそれほどなかった。検索エンジンでどうすれば上位に行くかなども研究して、スタート半年で月10万円の売上げになり、1年経って月100万円の売上げになった。当時は実質1人でやっていたが、2年で給料が取れるようになった。起業して2年経って大阪から北海道に移住してきた』
『02年は、年商1億円程度だった。04年に楽天がプロ野球に参入してeコマース市場が大きく変わった。楽天市場が注目され、それまで私のサイトに出品してくれていた北海道の仕入れ先が自分で楽天市場に商品を出すようになった。ネット通販が普及してきたので、私の会社のサイトとそっくりのサイトも出てきた。そのころ、北海道の特産品を扱う会社が500社も出てきて市場競合が激しくなり売り上げは伸びなくなってしまった』
『次の事業展開をしなければならないと考えて『北の快適工房』という北海道の原料を使った健康食品分野に参入した。もう一つ取り組んだのが『わけありグルメ』。これは、カニでも足のかけたものや規格外品の農畜産物を扱うネット通販で、これはマスコミにとても受けた。3年くらい前にはすべての情報テレビ番組に出たほど。年間で30回はテレビに出ていた。ガイアの夜明けにも特集番組で出演した。
当時はリーマンショツクで賢い消費の一つとして紹介が相次いだが、これも一斉にみんなが真似をするようになって一挙に競合が激しくなった』
『アイデア勝負のネットビジネスは長続きしないと実感した。この商品が気に入った、また買いたいというオンリーワンの自社商品がないと、ブームは一過性で終わることに改めて気づいた。ブームに飛びつく人は次のブームに流れていく。ブームに流れるようなアイデアや商品では存続できないと思った。現在の『北の快適工房』で扱っているオリゴ糖やポリフェノール、砂糖など道産原料を使った健康食品や化粧品はブームと関係がない。ブームと関係のないオリジナル商品で目立つことは一切せずに骨太に事業を進めていこうと決めた』
木下社長の講演は、上場を目指した理由や上場のメリットなどに続いていくが、後半は次回に掲載する。