札幌市北区北8条西1丁目で進んでいる市街地再開発事業。街区一帯が「さつきた8・1」とネーミングされ、2024年春誕生に向け着々と建設が進んでいる。この「さつきた8・1」が他の再開発事業と大きく異なるのは、低層階に演劇用の劇場が組み込まれること。座席数226席と小型ではあるものの、音響や照明は本格的で札幌の演劇シーンに大きなインパクトを与えると期待されている。札幌駅北口には元々演劇文化の土壌があったが、新たに建設される「北八劇場」は、そうした土壌を引き継ぎ、地域の新しい物語を紡いでいく舞台となりそう。「北八劇場」の運営を担っていく一般財団法人田中記念劇場財団の田中重明理事長(JBEホ―ルディングス代表取締役)、平田修二専務理事(公益財団法人北海道演劇財団顧問、札幌劇場連絡会顧問)、阿部基良評議員(ゴーランド専務)、笠島麻衣事務局長の4人にインタビューした。(写真は、一般財団法人田中記念劇場財団の田中重明理事長)
ーー劇場をつくろうと決めたきっかけは何だったのでしょうか。
田中 北8条西1丁目の土地は、曾祖父が明治の中頃に購入しました。その後、鉄道ができて札幌の街も大きく発展していきましたが、駅の北側はなかなか開発が進まず、市街化が遅れていました。再開発構想が何度か計画されましたが、バブル崩壊なども重なり実現しませんでした。そうした中で今回、ようやく事業が進むことになった。補助金が支出される市街地再開発事業では、地域に貢献することがうたわれていて、この地の再開発でも公開空地やアトリウム、災害時に避難できる施設を設けるなど、社会的インフラの一部も担うことになっています。
そうした地域貢献を計画していますが、ハードを整備するだけでなく、文化芸術、ソフト面で何らかの貢献をしていくことも大切ではないかと考えました。大きなことはできませんが、地主として関わってきた事業の中で、多少融通できるスぺースもあるので、その分を使って街の発展に繋がるようなことができればと考えました。札幌には、音楽ホールは多いけれど劇場が少ないということも耳にしたので、劇場なら街にインパクトを与えることもでき、文化芸術の発信効果も高いのではないかということで、演劇に最適な劇場をつくることを決めました。
ーー札幌駅北口には演劇文化の蓄積があると聞いています。
平田 駅が高架になる前に踏切がありましたが、その辺りには沢山の倉庫がありました。そのうちの一つが八号倉庫として、演劇によく利用されていました。1980年代から90年代は、さまざまな建物を利用して芸術的なムーブメントを起こそうという時代でした。そうした潮流の中で、歴史的な倉庫を劇場に使おうと、八号倉庫が使われていたのです。北9条西3丁目には、「蠍(さそり)座」という映画館もありました。そこはシアターキノと並んで、特徴ある映画を上映する映画館でした。
ーーそのような土地固有の地盤がある中での劇場誕生ですね。
平田 北海道大学の存在も大きいと思います。40年くらい前、北大の演劇関係者が北12条に小さな劇場をつくったことがありますし、最近では、北大で演劇を始めて現在は劇団を主宰している方が、北9条西2丁目に演劇用のカタリナスタジオをつくっています。北大からはみ出してくるムーブメントが、この界隈には伝統的にあります。
田中 そういう流れがあることと、もう一つは創成川があって、この地は明治後期に茨戸と札幌駅を結ぶ鉄道馬車の発着点でもありました。歴史的に交通の要衝だった地域なのですが、そうした土地の歴史が忘れ去られたところもありました。再開発によって街の役割が変わっていく中で、さまざまな文化的なことを復活させようという狙いもあります。商業は大通や駅前の南に任せて、北口のこの地は、文化の発信地にしようという意気込みを持っています。