11月17日から2022年1月23日まで、札幌市中央区の北海道立近代美術館で開催している企画展「富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今」(主催/HBC北海道放送、北海道新聞社)。「ガンダム」生みの親でアニメーション監督の富野由悠季氏(80)が、この企画展への思いなどを語った2回目を掲載する。(写真は、企画展「富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今」のオープニングセレモニー。左からHBC北海道放送・勝田直樹社長、富野監督、北海道立近代美術館・立川宏館長)
──新しい時代を切り拓くのは新しい芽、と話されていますが、若い人たちにはどういった目線で展示会を見てほしいですか。
富野 『富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今』を見に来てくれるファンは、基本的にアニメとか富野の仕事とかを知っている人々だと思っていますから、それについて説明する必要はありません。当事者としては、回顧として見るとそれなりに面白いだろうと思っています。
この展示会について、僕はプランニングに一切関与していません。7名の学芸員の方々がそれぞれ守備範囲を決めて、それを一堂にまとめて展示するという手法を取っています。そうしたことで、富野の作品だけを取り上げてもここ50年くらいのアニメ史を俯瞰できるようになっています。正直なところ自分自身が回顧しても、何でこういう仕事ができたのか分からない。良さもあれば、まずさも包み隠さず見せている。僕にとっては本当に襟を正される思いです。
僕としては、富野展を見て「こんな古くさいのは、もう見ていられない」という考えの若い人たちが出てきてほしい心境なんです。古い人たちは懐古趣味で良いですが、若い世代には「富野の時代にとどまっていてたまるか。冗談ではない」といった気持ちになってほしい。今回の展示はいわば、富野由悠季の世界の地盤が見える内容。それを足場、或いはスプリングボードに使ってほしい。
この程、文化功労者に選出されたことについて、「何なんだ」と僕自身考えました。それで分かったのが、「巨大ロボットを意識して作品を創らなくて良かった」ということ。公共の電波を使っているのだから、おもちゃ屋さんのスポンサーに向けた作品だけを創っていてはダメ。作品にはしっかりしたストーリーがあるんだ、と。
ストーリー性や世代感というものをすごく重要視して作品を創っています。殊更ガンダムのことを言われますが、1/1のガンダムを作りたくてあの作品を創ったんじゃない。あの巨大兵器を作らされた社会構造や戦争の構造、つまりは社会性がしっかり見えるように作品を創った。これはガンダム以外の作品でも絶えず意識してきたものです。その読み解きが、文化論にも繋がったのだろうと自己評価しています。
先に触れた社会性についてですが、これをより易しく言い換えると、「子供向け」に作品創りをしてきたということです。というのも、子供には絶対に嘘はつけない。子供だましの作品を、子供は見放します。見放されないために、作者は全身全霊というか、全体重をかけてものづくりをしなければならない。その点は、「海のトリトン」以来作品制作で守ってきたことでした。それが今回の文化功労者選出に繋がったのかなと。
若い世代には富野展を足場にして、古いものを一蹴し、新しい在り方を築いてほしい。地球環境問題では若い人たちが声を出し始めたが、おそらく20年ないし30年後くらいに新しい才能の政治家や経済人が現れてくるんじゃないかな、と思っています。いわば中世から全く変わっていないような論理やビジネスの在り方を見ると、やはり現状は「オールドタイプ」の世の中と捉えていますが、それを打破する才能が沢山出てきて初めて、「ニュータイプ」の時代の到来と呼べるのだろうと思っています。(次回に続く)