11月17日から2022年1月23日まで、札幌市中央区の北海道立近代美術館で開催している企画展「富野由悠季の世界 ガンダム、イデオン、そして今」(主催/HBC北海道放送、北海道新聞社)。来札した「ガンダム」生みの親でアニメーション監督の富野由悠季氏(80)が、この企画展への思いなどを語った。(写真は、富野由悠季監督=11月17日、北海道立近代美術館で)

 ──これまで安彦良和氏(遠軽町出身、「機動戦士ガンダム」ではキャラクターデザイン、作画監督を担当)、湖川友謙氏(遠軽町出身、「伝説巨人イデオン」や「聖戦士ダンバイン」のキャラクターデザインを担当)、安田朗氏(釧路市出身、「ターンエーガンダム」のキャラクターデザインを担当)と北海道出身のクリエイターと作品づくりをする機会が多かった印象ですが、北海道のクリエイターについてどう思いますか。

 富野 3人がいずれも北海道出身というのは、いってしまえばたまたまだったのかな、という受け止めです。ただ時代としては、安彦と湖川は同時期。安田はその20年後に出てきた人物です。感覚的に北海道は冬場、雪に閉ざされてしまうから、家の中で出来ることとして絵を書く。そんな地域性はあるのかな、と思ったことはあります。安彦、湖川の時代はアニメがようやく定着し始めた頃。彼らはアニメーターというよりは絵描き。一方、安田の場合はアニメの世界からもきちんとした絵描きが生まれてくることを教えられました。

 11月17日の開会式で、北海道在住の畑めいさんが小学生の時に制作し、日本一の評価を得たガンプラのジオラマ(展示作品はガンプラビルダーズワールドカップ2015のジュニア部門で日本大会優勝、世界大会で2位を受賞した「ラストシューティング」)が展示されているのをうれしい出来事として紹介しましたが、小学生であれほどのものが作れるのは一体何なんだろうか、ともつくづく思いました。絵画的なレベルでのセンスがとても高い。ああいった作品を見た時、アニメやコミックといったものがすっかり文化として定着して、ことさらアニメだから、マンガだからと言われることがなくなったのが、安田の時代に起きたのだと思っています。

 そうした中で日本のアニメの趨勢はどうなっていくのかと考えると、デジタル技術の進化に伴って今、アニメ業界は危機的状況にあると感じています。その例としてミュージックビデオ(MV)。とても人気のある某アーティストは自ら楽曲を作り歌うのみならず、アニメーションを多用したMVも自主制作している。アニメ界の人間としては、アニメまでやるのかとムカっとしていますよ。ただそうした動きは、デジタルアニメが個人のレベルで制作できるようになったということ。それに対し、シリーズ物やストーリー物を手掛けている日本のアニメプロダクションはどう認識しているのか。

 僕が参加しているサンライズに関しては、先に触れた兆候に対してちょっと無関心なところがあるのでは、と気になっています。例に挙げたMVのようにアーティスティックな面でかなり高度なものが要求され始めている中、新しい才能も求められている。だからこそサンライズには、そういった才能を探す行動を積極的にしてほしいと思っており、併せてそれは僕自身の任務でもあるのだろうと受け止めています。
 しかしながら、基本的に年寄りの価値観を持ち込むのはやめてほしい。いうなれば、僕に意見を言わせないプロダクションワークを確立していかなくちゃいけない。

 加えて、個人レベルでデジタルアニメが作れるようになったといっても、個人で作ったものは詰まる所私小説のようなもの。スタジオワークの作品があるというのは、やはりオープンエンターテインメントも求められているからです。個的な作業にあまり熱を入れないで、スタジオワークに戻ってきてほしいなと、それぞれの分野のアーティストにお願いすると共に、デジタルに傾倒していく世代へは、社会性を持って仕事をすることを忘れないでいただきたい、と忠告しておきます。

 アニメの趨勢というところで、はっきり脅威に感じているのは北京発のアニメーション。かなり洗練された商業作品になっています。僕は10年前、北京大学で講演をしたことがあるのですが、アニメ同好会などそこに集まった人数は相当なものでした。その彼らが10年の月日を経てプロになったわけです。怖いのは北京大学という名門出のインテリがアニメの世界に入ったということ。
 加えて中国は国家としてもアニメ界に相当の支援をしている。かたや日本の政治家は、アニメを30年前、40年前の感覚で捉えている節が見受けられる。日本はビジネス一辺倒の視点でアニメ作りをしていると、北京の彼らに完全に負けてしまうぞ、という危機感があります。でも自分の講演を聞きに来ていた彼らに、そこまで塩を送ったつもりはないし、負けたくない。
 しかしながら、日本はもうアニメ先進国ではなくなった、という認識は持ってほしい。にもかかわらず、メディアやビジネス界がその認識でいるのはずさんというものです。(次回に続く)


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