本州で吹き荒れる地方銀行の統合・合併の嵐が北海道で信用金庫再編という形で上陸した。札幌信金(本店・札幌市中央区)、北海信金(同・余市町)、小樽信金(同・小樽市)の3信金は2018年1月に合併、道内初の預金量1兆円を超えるメガ信金が誕生する。3信金合併は他の地域を地盤とする信金同士の合併にも影響を及ぼすことは必至だ。(写真は、2016年春完成を目指して建設が進む札幌信金新本店ビル。2015年11月2日18時ころ撮影)
道内でのメガ信金構想は、出ては消え、消えては出ていた。3年程前には札幌信金と北海信金を核に別の信金が絡んだ構想が出たこともある。道内に23ある信金首脳たちは再編派と独立派に分かれ、どちらかと言えば独立派が多い。その中で、札幌信金、北海信金は再編派の筆頭格だった。「いずれ2信金は、再編を仕掛けてくる」という見方は金融関係者の常識だった。
3信金は、渡島北部と後志、石狩にまたがる道央圏を基盤とする信金同士で、人口減少、地方経済の低迷という共通の課題を抱える。道央圏のワンパック化を目指すことによって規模を拡大、信金の繋ぐ力を強化して貸出増や新産業育成に結びつけようというのが合併の狙いだ。
金融機関は、金利競争や資金需要の低迷で本業の利ザヤ収入(貸出金利と預金金利の差)が年々薄まっている。金融当局は、地域経済の底上げを重視する金融監督姿勢を示し、金融機関には5~10年先のモデルを示すことを求めている。こうした金融当局の姿勢も今回の信金合併に繋がった。
北海信金の初代理事長である藤田幸夫氏は、東京の城南信金の基礎を作り日本の信金の礎を作った小原鐵五郎氏をもじって“北海道の小原鐵五郎”と呼ばれた。小原氏は『貸すも親切、貸さぬも親切』という信金の真骨頂を表したフレーズで知られている。藤田氏は北海道信金協会の初代会長も務め、中小企業金融に徹し、地域の発展に貢献するという北海信金の庫風を形作ってきた。それをベースに、長万部信金(91年)、岩内信金(97年)、道央信金・夕張信金(2001年)、古平信金(05年)と合併を重ねてきた。ただ、11年に職員の着服事件を隠蔽していたことが発覚、道財務局から業務改善命令を受け、ここ数年間は“喪の期間”と見られていた。
また、札幌信金は最も競争の激しい札幌を地盤とし北洋銀行や北海道銀行、メガバンクなどと競争と協調の能力を磨き上げ、そのハンドリング能力では定評がある。現在、建設中の新本店ビルが完成するまでの仮本店を北洋銀の旧札幌営業部跡とするあたり、巧みな外交戦略と言えなくもない。03年には石狩中央信金と合併しており再編への抵抗感はなかった。
小樽信金は、北海と札幌の2信金の狭間でこれまで独自色を発揮することに腐心してきた知恵者の側面がある。NISA(少額貯蓄非課税制度)への足掛かりを掴むため上光証券(本社・札幌市中央区)と信金として最初に提携している。
合併の基本合意から通常は1年程度で合併するが、今回、2年後としたのはシステム統合が必要なため。札幌信金と北海信金は日本ユニシスのシステムを使っているが、小樽信金は信金共同事務センターのシステム。このため、小樽信金は共同事務センターから離脱、日本ユニシスに変更しなければならない。その時間を見たということ。ちなみに今年1月に苫小牧信金がユニシスから共同に変更、来年1月には空知信金が同じくユニシスから共同にシステム変更する。道内でユニシス系は今回の2信金を除くと旭川信金と室蘭信金のみとなる。
3信金合併によって預金量は1兆314億円と旭川信金の7834億円を抜いて道内最大となる。自己資本比率は16・17%、役職員数は843人、店舗数は90。道内では初の兆円信金となるが、全国順位では京都中央信金の4兆2000億円をトップに33番目。なお本店は札幌信金の本店に置き、本部も札幌信金の本部とし北海信金、小樽信金の本店には事業本部(仮称)を置く。
人口減少、地方経済の低迷、金利競争という3重苦は、道内の他の地域を地盤とする信金も同じ。今回の3信金合併は、道南圏、道北圏、道東圏での信金再編を促すことにもなりそう。
ちなみに合併後の新金庫の名称は今後決めるとしているが、3信金の札幌・北海・小樽は使わないという。北海道の道央圏をイメージするどんな名前になるのか、興味が募る。
一般社団法人北海道信用金庫協会杉山信治会長(旭川信金会長)の談話…このたび、札幌信金、北海信金、小樽信金が合併に向けて基本合意に達した旨の報告を受けました。3信金からは人口減少や高齢化が進む中で、営業エリアの近い3信金が先々を見据えて経営基盤の強化を図るべく合併し地域経済の活性化、地方創生に貢献していくと聞いております。健全経営の3信金が将来を見据えて前向きな合併を選択し、道内初の「兆円」金庫になることをまずもって祝福いたします。3金庫は、営業区域が近く、合併効果が得られやすいと考えられ、今後は合併が円滑に実現し、より強靭な経営体質のもとで地域密着型金融の機能を発揮し、地域経済の活性化、中小企業金融の円滑化などに貢献されることを期待しております。