まるで時代を切り取ったような不思議な空間が、千歳市中心街の幸町4丁目に広がっている。屋上に据え付けられた「Kodakカラーフィルム」の看板。歳月を感じさせる古びた看板には、当時の色合いが今も残っている。早晩、取り外されることになりそうだが、往時のフィルム全盛期を誇るように街を見おろしている。
(写真は、「Kodakカラーフィルム」の形をした屋上看板と5階建てビル)
屋上看板が設置されたKodakビルとも言えそうな地上5階建ての白い建物は、1990年頃に建設されたという。地元の写真館が建てたものだが、今は大阪の不動産業者が所有している。写真館は今も続いているものの、運営しているのは当時とは別の店主。「あの看板は、ビルができた時から設置されている。当時、Kodakのフィルムはよく使われていたからね」とその店主。
Kodakのフィルムを生産していたのは、米国本社のイーストマン・コダック社。写真用品の世界的メーカーでスチール用フィルムの世界シェアも高かった。「Kodak」「FUJI」「SAKURA」は国内フィルム市場の3大ブランドだったが、デジタルカメラの登場で2000年代には急速に市場が縮小。コダック社は2009年に倒産し、事業は別会社などに承継された。
環境激変で一気に市場を失っていったフィルムだが、そんなことはお構いなしに、孤高の佇まいを見せているのがこの看板。しかし、隣接の旧千歳デパートは解体され、賃貸マンションの建設が進み、ラピダス半導体工場誘致に伴うホテル、オフィス需要の増加で、街並みも変わり始めている。時代をくぐり抜けてきた看板が、いよいよ時代に流されるのか。その瞬間は2つの「コダックモーメント」になるだろうか。